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クリスマスの奇跡

2023年12月4日
 若い兵士が戦地から恋人に送った手紙。そこに書かれていたのは「母の『人を撃つような人間にお前を育てていない』という声が耳から離れず、僕は良い兵士になれそうもない」という悩ましい思いだった。

 「グレープ」のさだまさしさんと吉田政美さんが、30年ほど前に一時的に再結成したユニット「レーズン」の「あと1マイル」という曲。この若者は銃弾に倒れてしまう。味方からわずか1マイル(約1・6キロ)の場所で、そして戦争が終わるわずか数日前に…。

 今年の春に、県立図書館の「こどもの読書週間」の特設コーナーで1冊の絵本が目に留まった。「戦争をやめた人たち」(文と絵・鈴木まもる)。第1次世界大戦時の1914年のクリスマスに敵対するイギリス、ドイツ軍の間で実際に起きた小さな奇跡が描かれている。

 国境を挟んでにらみ合う両軍の兵士が、ひょんなことから武器を捨てて互いに近づき…。この実話自体がすばらしいのだが、それと同じく心に強く残ったのはタイトル。「戦争をやめた兵士たち」ではなく「戦争をやめた人たち」。歩み寄った時点で、彼らはもはや兵士ではなく「人」だったのだ。

 「戦争を始めるのも、やめることができるのも人」というのが、この本のメッセージだ。だが、たとえ兵士がやめたくともそれを許さない指導者たちがいる。その罪深さを思う。特に今はせっかく停戦にこぎつけたのに、継続できなかった為政者らの罪を―。

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