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薄墨の便り

2023年12月20日
 郵便局で年賀状の受け付けが始まった、というニュースを聞いて慌てて用意を始めた人は多いはずだ。いや人ごとではない。例年のことながら、とりあえず今年家に届いた喪中はがきから整理を始めている。

 多くは80代以上の親世代の不幸を記した文面だが、ここ数年は同年代の人の不幸を知らされることが増えてきた。例えば高校の同級生、学生時代のサークル仲間。そんなはがきを手にした時は、薄墨色のインキで印刷された数行の文章を何度も読み返してしまう。

 信じられない気持ちと、友人・知人の近況を全く知らなかったことへの後ろめたさがない交ぜになる。もう一度、会っておくべきだった、などと後悔の念にもかられる。もう年賀状を交換することがない相手。せめて年の瀬は、故人をしのぶ時間をひとときでも持ちたい。

 喪中はがき、正式には「年賀欠礼状」と言うそうだ。毎年のように年賀状をやりとりしていることが前提となる。ただ電子メールや会員制交流サイト(SNS)の利用拡大に押されて、年賀状そのもののやりとりが縮小している。数年前、ある葬祭業大手が喪中はがきについて意識調査を実施していた。

 メールやSNSで代用することに約8割は抵抗感がなかった。生まれたときからネット社会という世代は確実に増えている。いずれは喪中はがきも「昔の習わし」となって廃れるのだろうか。世の流れとは言え、故人の思い出まで薄まるような寂しさも覚える。

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