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大切な人と過ごす時間

2023年12月22日
 「もうすぐ夏至だ。冬至の日はうれしい。これからどんどん明るくなるのだと思うと、まだ真冬だというのに心が明るむ」。第3回若山牧水賞受賞歌人・永田和宏さんの随想「もうすぐ夏至だ」にある一文。

 「夏至は嫌だ。あとは明るい時間がどんどん短くなってゆくばかり」と続く。共感される方も多かろう。〈クリスマスよりも嬉しき冬至かな〉(塩田博久)も同じ心境か。一年で最も昼が短い日は、これから日が長くなっていくスタートの日。きょうはその冬至。

 ただ、永田さんのこのエッセーの主題はそこではない。挿入された〈一日が過ぎれば一日減つてゆく君との時間 もうすぐ夏至だ〉の歌に見られるように、この文は妻で同じく若山牧水賞受賞歌人・河野裕子さんが2010年にがんで亡くなる直前に書かれたものである。

 〈あなたにもわれにも時間は等分に残つてゐると疑はざりき〉とも。この前年、永田さん夫妻は家を建て替えたばかりだった。〈この家に君との時間はどのくらゐ残つてゐるか梁(はり)よ答へよ〉は、妻・裕子さんの歌。どの歌からも大切な人との時間の終わりが迫り来る切なさがひしひしと伝わってくる。

 もうすぐクリスマス、そして正月。すでに冬休みに入った学校もある。この時期は、有限である「大切な人と過ごす時間」のありがたさを再認識する機会にもなろう。その大事な時間に向けて、これから人の流れが加速していく。今年も残すところあと10日。

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