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水源を守る竜神

2024年1月6日
 門川町・尾末地区。ある寒い晩「水が切れてもう動けません」という旅の若い女性を漁師夫婦が家に泊めた。女性は水を何杯も飲んで元気を回復し、客間で休む前に「私の寝姿を見ないでください」と話す。

 「見るな」と言われると見たくなる。夜中にこっそり漁師がのぞくと、一匹の竜が横たわっていて驚いた。翌朝、女性は「私はおせりの竜神。約束を守っていただけなくて残念です。しかし一夜のお礼はします」と立ち去った。その日漁に出た漁師は大漁だった。

 「おせり滝の昔話」(著者・松浦治ほか)にある話。おせり滝(美郷町西郷)には竜神の伝説が多く残る。確かに高さ約70メートルの崖から3段に落下する滝の光景は、昔から巨大な竜が天に昇る様を連想させたことだろう。県内ではほかにも大滝のある土地では竜神の信仰が残る。

 滝は勢いよく流れる川の象徴。古来、水利に心を砕いた人々が滝に神性を認めたのは自然な心理だったはずだ。ちなみに竜は英語で訳すとドラゴンとなるが、日本の竜とは性格がかなり違う。あくまで一般的な区別だが、羽があって火を吹くドラゴンは悪魔的な怪物で、よく英雄に倒される相手だ。

 今年は辰(竜)年。えとの中で唯一、架空の動物だが、水源地を守る存在としてみれば、まさに環境保護のシンボルだ。水を通して生物多様性、森林や海洋の保全を考える年にしたい。逆に地球温暖化が悪化する事態になれば悪いドラゴンが目覚めてしまう。

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