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苦い自然の摂理

2024年1月7日
 昔、ある男が元日の年始あいさつに高僧のもとを訪れた。「記念に一筆、何か縁起のいいことを書いてください」と頼んだところ僧は快諾。筆を取ってさらさらと「親死に、子死に、孫死ぬ」と書きつけた。

 男は「正月早々なんで縁起でもないことを書くのか」と抗議。僧は静かに「いやこんなめでたいことはない。親が死んでから子が死ぬ。子が死んでから孫が死ぬ。順序が逆になったら大変なことだ」と言ったので、男はなるほどと感心して書を大切にいただいた。

 高僧は禅味あふれる書画で知られる江戸時代の禅僧・仙厓(せんがい)義梵(ぎぼん)。生まれは美濃国だが、博多の寺の住職を長年務め88歳で亡くなった。奔放な生き方から多くのエピソードを残しており、辞世の言葉は「死にとうない」と伝わる。ただ、これは一休和尚の言葉とも言われる。

 正月にやってくる年神様が滞在する期間を指す松の内が今日で終わる。15日までとする地区もあるが、今日あたり飾ってある門松やしめ縄を片付ける家庭は多いだろう。元日からの大災害、大事故の連続で、めでたさよりも突然暮らしや命が奪われる無常や自然の摂理を考えさせられた正月だった。

 7日は無病息災を願って七草がゆを食べる風習がある。春の七草を入れた雑炊で年末年始のごちそうで疲れた胃を休める目的もあるようだ。スーパーでは、県内の農家で生産された七草のパックが売られている。今年は自然の苦みがことさら腹にしみそうだ。

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