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負けてたまるか

2024年1月12日
 お寺の門前などにある掲示板には、住職らによる含蓄のある言葉が書かれている。全国のユニークな言葉が書かれた掲示板を、写真とともに紹介した「お寺の掲示板」(江田智昭著、新潮社)なる本がある。

 「おまえも死ぬぞ」は岐阜県の願蓮寺。一瞬ドキッとするが「誰もがいつかは死すべき存在」という当たり前のことを改めて突き付け、日々を大切に生きるよう示唆している。東京・築地本願寺の「人間みんな裁判官 他人は有罪 自分は無罪」も深い言葉である。

 京都・佛光寺の「つくられた幸せでインスタ疲れ 本当の幸せは写真映(ば)えしない日常の温かさの中に光っている」は“お寺の掲示板界”で最も有名らしい。特別じゃない普通の日を生きる幸せ。多くの命が失われた先日の震災を思いつつかみしめると、より強く心に響く。

 その震災後、石川県輪島市にある法輪山興禅寺の掲示板には、太く力強い文字で書かれた言葉が。「負けてたまるか!!」。同寺は2007年の地震で全壊。今回は本堂こそ難を逃れたが、境内の灯籠や石像は軒並み倒れたという。住職の市堀玉宗さんは「自分への呼びかけでもある」と話している。

 シンプルだが、同じ被災者が発しているため地元住民への説得力も共感もより深いものとなろう。負けてたまるか―悲しみに、喪失感に、絶望感に。地元の歯をくいしばっての「負けてたまるか」に全国から寄せられる「負けないで」のエールが共鳴している。

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