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春はもうそこに

2024年2月3日
 「僕は、日の光というものがこんなにも暖かかったということを、すっかり忘れていた」。30歳で出家し曹洞宗大本山の永平寺で修行生活を送った野々村馨さんという男性が、その修行記で振り返っている。

 冬に山門をくぐって以来、ずっと陽光から隔てられた厳しい修行の日々。晩冬のある日、仏殿の外で諷誦(ふじゅ)(経文を声を出して読むこと)していると、まだ浅いながら確実に輝きを増しつつある春の日の光が杉のこずえの間から差し込んできた。その感動を記した。

 冬が長く厳しいほど、その先でふと春を感じた瞬間の喜びは格別だろう。3年前に107歳で亡くなった美術家・篠田桃紅(とうこう)さんの「節分と豆」という随想にも、同様の心境がつづられている。「ああ、春が待ち遠しいという思いの登りつめる、ついの日が立春であろう」。

 そのうえで「その日からは身も心も放たれる、節を分けるという思いに、豆を撒(ま)くという気前のいいしぐさはうってつけである」と。きょうがその節分だ。この日に豆をまくという風習は、大みそかから正月にかけて宮中で行われていた疫鬼を追い払う「追儺(ついな)」という陰陽道の行事が起源だという。

 まだ年間で最も寒い時期であることに変わりはないが本紙にも新富町の座論梅や高千穂町のフクジュソウの開花の記事が載った。あすは立春。今は北陸の被災地に早く本当の春が訪れることを願う。風雪に妨げられることなく復旧への作業が加速できるよう。

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