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もう一つの水の星

2024年2月5日
 詩人・茨木(いばらぎ)のり子さんに「水の星」という作品がある。「宇宙の漆黒の闇のなかを ひっそりまわる水の星 まわりには仲間もなく親戚もなく まるで孤独な星なんだ」。もちろん地球のことをさしている。

 実際、太陽系の八つの惑星の中で、氷ではなく液体としての水が存在するのは地球だけ。「仲間もなく親戚もなく」という表現は正しい。しかし先日、太陽系の外にある惑星で、水を豊富に含む大気がこの星を取り巻いているのをハッブル宇宙望遠鏡が検出した。

 米経済誌フォーブスの電子版が報じた。この星は、地球よりもはるかに古く60億年ほど前に誕生したという。直径は地球のおよそ2倍。地球のある太陽系からの距離はわずか97光年。「わずか」とはいっても約917兆キロもあり、現代の科学力でたどり着ける星ではない。

 今後の展開次第で地球は「孤独な星」ではなくなるかもしれない。地球に大量の水がどうやってもたらされたかについては、今も完全には分かっていない。彗星(すいせい)や水を含んだ小惑星が衝突した際に運び込まれたなど、いくつかの説があるようだ。ともあれ、そのときの地球は大変な状況だったろう。

 くだんの茨木さんの詩にはこうある。「すさまじい洪水の記憶が残り ノアの箱船の伝説が生まれたのだろうけれど善良な者たちだけが選ばれて積まれた船であったのに 子子孫孫のていたらくを見れば この言い伝えもいたって怪しい」。返す言葉もない。

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