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田植え

2024年4月2日
 水源の山々を遠くに見ながら、県央の平野では田植えが進んでいる。田起こしで虫やカエルが掘り起こされた田の脇を毛細血管のように流れる水路。その水は取水元となる河川上流に近いほど冷たいという。

 代かきが終わった田にはだしで入れば、ぬるぬるっとした土が足の指の間から入り込む。「うねゆたかの田んぼの絵本 4」によると、土の性質に加え「藁(わら)や草が分解され、微生物が棲(す)みついて、その排泄(せつ)物などが土にくっつくと、さらにぬるぬるする」そうだ。

 トラクターでかき混ぜられ、土の養分が溶け出た水は日光を受けてぬるみ、早苗の居心地良い寝床となる。絵本には東日本大震災の原発事故で稲作を禁止された農家が「ツバメが巣を作るための土が手に入らなくて困るだろう」と、代かきだけをしたという挿話もあった。

 以前より随分減ったとはいえ、水田の中や周囲には多くの動植物が息づく。絵本の著者で稲作に取り組む宇根豊さんは「なぜ稲植えと言わずに田植えというのか」との問いに感覚的な答えを示す。「稲を植えるというと、お百姓が主役ですが、田を植えるというと田んぼが主役のような感じです」

 脇役といえる農家にとって、田植えやあぜ塗りなどの農作業を他に委託したとしてでもコメ作りは生きがいとなる。しばらくすれば、小さかった苗は茎から枝芽を出してぐんぐんと伸び、人と生物たちの営みが交錯する田んぼに、爽やかな青田風が吹き渡る。

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