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防衛力の財源

2022年12月3日
◆安易な負担増は許されない◆

 岸田文雄首相が、防衛関連予算を5年間で段階的に増やして2027年度に国内総生産(GDP)比で2%に達するよう関係閣僚に指示したのに続き、政府は今後の防衛装備品などの経費額を示す「防衛力整備計画」で、23~27年度の総額を最大43兆円とする方向で検討に入った。43兆円となれば現行の中期防衛力整備計画(19~23年度)の1・5倍超の規模となる。

 首相は防衛力強化に向け、財源確保策を議論して年末に結論を出す方針を示している。政府の有識者会議が報告書で、防衛費増の財源として増税を求めたのを受けた対応だ。

 中国や北朝鮮の軍事的脅威により防衛力強化は重要だとしても、国民の理解が十分と言えない今の段階で増税を持ち出すのは乱暴に過ぎる。まず歳出の徹底的な見直しが当然であり、それをなおざりにした負担増は受け入れられない。

 東アジアにおける軍事的緊張やロシアのウクライナ侵攻を背景に、政府は今年の骨太方針に防衛力の「5年以内の抜本強化」を明記した。

 有識者会議の報告書は、防衛力の抜本強化策として相手国のミサイル発射拠点を攻撃する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などを要求。同時に、財源確保へ「幅広い税目による負担」が必要と増税に踏み込んだ。

 だが共同通信の世論調査で、財源は「防衛費以外の予算の削減」が適当との回答が35・4%と最多だったように、第一に取り組むべきは断固とした歳出の見直しと冗費削減だ。日本は国債残高が1千兆円を超え主要国最悪の財政状態にある。新型コロナウイルス対応を機に急膨張した歳出全体の適正化を図ることが先決だろう。

 国会審議中の国費29兆円を投じる総合経済対策のような「規模ありき」の財政運営から決別する時だ。放漫な経済対策や予算編成を重ねた結果、過去2年度は20兆~30兆円もの繰越金が発生。節度を欠く予算と国債頼みを許した日銀の金利抑制策と合わせて、修正が求められる。

 政府は財政健全化のため基礎的財政収支(プライマリーバランス)の25年度黒字化を目標に掲げる。防衛費の上積みにより目標達成が不透明とならぬよう、首相は健全化への揺るがぬ姿勢を改めて明確にすべきだ。増税するとしても順番がある。まず大企業と高所得層を対象とするのが適当だ。

 所得が増えない中で家計はこの10年ほどの間に2度の消費税増税、社会保険料の引き上げ、そして足元のインフレに苦しんできた。防衛強化へ一層の負担を家計に求めることで、国力の中核である経済を損なうリスクを軽視してはならない。

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