知床沈没事故
2022年12月17日
◆チェック体制不備も問題だ◆
北海道・知床半島沖で4月、乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故の原因を調査している運輸安全委員会が経過報告を公表した。それによると、密閉されていなかった船首のハッチから海水が甲板下の船倉や機関室に流れ込み、船底全体にあふれたとみられる。
26人のうち20人の死亡が確認され、今なお乗客6人が行方不明という重大事故を巡っては、第1管区海上保安本部が運航会社「知床遊覧船」の社長や死亡した船長について業務上過失致死容疑での立件を視野に捜査。社長らが事故を予見できたかなど詰めを急ぐ。
国土交通省も近く再発防止策をまとめる。監査や検査で知床遊覧船による数々の法令違反を見逃し、事故を防げなかった国の責任は検証されないままになっている。乗客家族は国交省の説明会で、監査や指導に直接携わった担当者に話を聞く機会を設けるよう求めたが、実現していない。社長らの利益優先と安全軽視が取り返しのつかない結果を招いたのは間違いないが、国はチェック体制の不備についても説明を尽くし、安全安心の徹底を図っていく必要がある。
引き揚げられたカズワンの船首にあるハッチのふたは外れており、安全委は波を受け外れたふたで客室の窓が破損して海水が流入し、船体の傾斜を早めたと推測。甲板下には船倉などを仕切る複数の隔壁があったが、いずれも開口部があり、浸水を防げなかった。開口部がなければ浸水は船首付近にとどまり、沈没しなかったとみている。
事故は4月23日。事故当日、地元漁師らが荒天を予想して出航を取りやめる中、自らを運航管理者として登録していた社長が船長と話し合い、出航を決めたとされる。捜査では、社長らが事故を予見できたか、回避できる可能性があったかなどが焦点となる。
そもそも社長は「3年以上の実務経験」という運航管理者の要件を満たしていなかった。昨年の事故に伴う特別監査と行政指導に際しては「安全と法令順守意識の向上を確認できた」と評価したが、事務所のアンテナが破損して無線を使えず、航路の大半でつながらない携帯電話を通信手段として届けていた。
事故後、国交省が全国の旅客船事業者に実施した緊急安全点検では162事業者に安全管理規程違反などが確認され、監査・検査の形骸化は深刻と言わざるを得ない。どうして、そうなってしまったのか。人員不足や事業者とのなれ合いも指摘されるが、知床遊覧船の問題点が監査などをすり抜けた経緯を明らかにし、責任の所在を明確にする必要があろう。
北海道・知床半島沖で4月、乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故の原因を調査している運輸安全委員会が経過報告を公表した。それによると、密閉されていなかった船首のハッチから海水が甲板下の船倉や機関室に流れ込み、船底全体にあふれたとみられる。
26人のうち20人の死亡が確認され、今なお乗客6人が行方不明という重大事故を巡っては、第1管区海上保安本部が運航会社「知床遊覧船」の社長や死亡した船長について業務上過失致死容疑での立件を視野に捜査。社長らが事故を予見できたかなど詰めを急ぐ。
国土交通省も近く再発防止策をまとめる。監査や検査で知床遊覧船による数々の法令違反を見逃し、事故を防げなかった国の責任は検証されないままになっている。乗客家族は国交省の説明会で、監査や指導に直接携わった担当者に話を聞く機会を設けるよう求めたが、実現していない。社長らの利益優先と安全軽視が取り返しのつかない結果を招いたのは間違いないが、国はチェック体制の不備についても説明を尽くし、安全安心の徹底を図っていく必要がある。
引き揚げられたカズワンの船首にあるハッチのふたは外れており、安全委は波を受け外れたふたで客室の窓が破損して海水が流入し、船体の傾斜を早めたと推測。甲板下には船倉などを仕切る複数の隔壁があったが、いずれも開口部があり、浸水を防げなかった。開口部がなければ浸水は船首付近にとどまり、沈没しなかったとみている。
事故は4月23日。事故当日、地元漁師らが荒天を予想して出航を取りやめる中、自らを運航管理者として登録していた社長が船長と話し合い、出航を決めたとされる。捜査では、社長らが事故を予見できたか、回避できる可能性があったかなどが焦点となる。
そもそも社長は「3年以上の実務経験」という運航管理者の要件を満たしていなかった。昨年の事故に伴う特別監査と行政指導に際しては「安全と法令順守意識の向上を確認できた」と評価したが、事務所のアンテナが破損して無線を使えず、航路の大半でつながらない携帯電話を通信手段として届けていた。
事故後、国交省が全国の旅客船事業者に実施した緊急安全点検では162事業者に安全管理規程違反などが確認され、監査・検査の形骸化は深刻と言わざるを得ない。どうして、そうなってしまったのか。人員不足や事業者とのなれ合いも指摘されるが、知床遊覧船の問題点が監査などをすり抜けた経緯を明らかにし、責任の所在を明確にする必要があろう。