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安保戦略の転換

2022年12月21日
◆信問うべき平和国家の針路◆

 岸田政権は外交・安全保障政策の基本指針となる「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を閣議決定した。

 国家安保戦略は日本周辺の情勢について「戦後最も厳しく複雑な安保環境」だと強調し、防衛力の抜本的な強化を表明。他国のミサイル発射拠点を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有し、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に大幅増額すると打ち出した。

 戦後日本は憲法9条に基づき、「平和国家」として専守防衛に徹してきた。他国の領域を攻撃できる反撃能力の保有は、日米安保条約の下で「打撃力」を米国に委ねてきた安保政策を根幹から転換するものだ。

 こうした重大な政策転換が今回、国民的な議論抜きに決められた。岸田文雄首相は先の臨時国会では反撃能力に関して明確な方針を示さず、政府の有識者会議や与党協議など非公開の議論だけで決定。首相は5年間の防衛関連予算を約43兆円とし、財源確保のために増税することも一方的に表明した。極めて不透明で、独善的な決め方だ。

 新たな安保戦略は「国家の力の発揮は国民の決意から始まる」と記述。防衛増税に関して首相は「今を生きるわれわれの責任」と発言した。だが、国民への丁寧な説明や十分な議論は行われていない。平和国家の基軸を堅持するのか、力に力で対抗する国になるのか。国家の針路を国会で徹底的に審議し、総選挙で国民に信を問うべきだ。

 安保戦略は、中国を国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」と位置付け、台湾有事の可能性にも言及。北朝鮮は「重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」との認識を示した。確かにロシアのウクライナ侵攻を機に、国民の不安は高まっている。だが、不安に乗じ、増税まで行う防衛力増強が日本の選択すべき道なのか。

 GDP比2%の防衛予算は約11兆円で、米中両国に次ぎ、世界で3番目の水準となる。戦力不保持を定めた9条2項との整合性が問われよう。

 安保戦略は、他国が日本を攻撃する「意思を正確に予測することは困難」だとし、相手の能力に応じて「万全を期す防衛力」整備の必要性を主張する。だが、これは軍拡競争で逆に緊張が高まる「安全保障のジレンマ」に陥る論理だ。

 戦後日本が平和国家の道を歩んだ基礎には先の大戦の反省がある。エネルギー資源の多くを輸入に頼り、食料自給率が低い日本は周辺国との協調が不可欠だ。冷静な情勢分析に基づき、地域の緊張緩和に粘り強く取り組む。それ以外に日本が進む道はないことを再確認すべきだ。

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