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生物多様性の新目標

2022年12月28日
◆自然破壊の危機 認識深めよ◆

 カナダでの国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は「世界の陸と海の少なくとも30%を保全する」などとする2030年までの新たな生態系保全目標を含む「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」を採択した。23項目の目標達成を通じ、30年までに生物多様性の急速な損失に歯止めをかけ、回復に向かわせる「ネーチャーポジティブ」の実現を目指す。

 生物多様性の損失は、社会や経済にとっての大きなリスクなのだが、日本国内の危機感は薄い。今回の採択を機に、国内での認識を深めることが必要だ。

 交渉過程で、原案にあった多くの数値目標が消えてしまったものの、枠組みの中には「先進国から途上国の多様性保全に25年には年200億ドル、30年には年300億ドルを投じる」「外来種の侵入速度を50%減らす」との数値目標が含まれる。

 「農薬などのリスクの少なくとも半減」や「生物多様性に有害な補助金を30年までに少なくとも年5千億ドル減らす」ことも盛り込まれた。強制力も罰則もないが、先進国の一員として国内外での生物多様性保全に真剣に取り組まねばならない。

 注目の交渉だったが、野心的な枠組みづくりに日本が積極的に貢献したとは言い難い。企業活動が生物多様性に与えるリスク開示の義務化を明記するよう多くの企業が強く求めたにもかかわらず、日本政府は反対。最終合意から落とされた。

 農薬リスクやプラスチック汚染の強化にも消極的で、文言の削除を求める姿勢に議長から「それは建設的な意見ではない。対案を出せ」と迫られ、交渉官が口ごもる場面もあった。欧州諸国に比べて国内対策が遅れている現状の反映だろう。

 多様性保全に重要な企業の情報開示を義務化せずにどう進めていくのかや、有害な補助金を減らしていくことも重要な課題となる。いずれも、日本企業の国際的な競争力にも関連する。

 これまで生物多様性保全は、環境政策の一部ととらえられがちだった。だが、新目標は環境政策の強化だけでは達成できない。生物多様性の保全を、すべての政策決定や企業の意思決定の中に明確に位置付ける「主流化」の実現が第一歩となる。

 われわれは長い間、自然の恵みはただで手に入ると考え、自然の恵みの価値や自然破壊で失われる価値の巨大さに目を向けずにきた。今やこのような態度は許されない。自然を破壊する者はその対価を支払わされ、自然を守った者はその対価が得られる。新枠組みが求めるこのような社会の実現には、お金の流れを変えることが必要になる。生物多様性の危機が投げかける課題の大きさを心に刻みたい。

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