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新しい地域像へ

2023年1月1日
◆確かな信頼築き平和と安定を◆

 2023年の1年が明けた。華やかな喧噪(けんそう)に包まれて年明けを過ごされているだろうか、それとも寒風に咲く花たちをめでながら静かに祝っておられるだろうか。ともあれ新年を迎えられたことに感謝しつつ、読者の皆さんのこれからが平和と平穏に満たされることを願う。くすぶっていた戦争の火種が現実化した今、その思いはより強まっている。

 過去の戦争の犠牲と反省から、共生や平和がうたわれるようになった21世紀。にもかかわらず、22年2月、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、世界に衝撃を与えた。

 国際社会は戦争の長期化に慣れてはならない。そして、憎悪の応酬に歯止めをかける努力を続けねばならない。不安をあおり安易な軍事力強化に傾く日本の政治にも、冷静で慎重な視線を注ぐ必要がある。軍拡が平和を築く前提になるはずがない。脆弱性を分かち合う

 低賃金や物価高で生活は痛みを強いられている。気候変動と異常気象、格差の問題も解消する兆しはない。社会にまん延する人々の不安と動揺。銃弾の雨にさらされることはなくとも、また違った方法で命がしぼみ、尊厳がむしばまれていく。

 まるで「静かな戦場」の渦中にいるようだ。不安や孤立の中でうずくまり、ひっそりと懸命に闘っている人が近くにいる。このことを忘れたくない。

 コロナ禍からの回復途上にある今、求められているものを一人一人が考えてみたい。まずは手薄な医療と福祉、人口の過密と過疎などコロナ禍で露呈した弱点を克服すること。そうした”体制改善”が欠かせない一方で、一人一人の価値観の変革、それを束にした社会の”体質改善”がさらに重要になってくるのではないか。

 自己責任と成長幻想から逃れられない社会に見切りを付ける。資本主義社会の副産物である分断と格差を仕方ないものと諦めてやすやすと受け入れない。その代わりに、さまざまな境遇にある、深い痛みを持つ人たちと「共にある」社会を志向する。

 疲弊の中で、痛みやもろさを再確認した人は少なくないはずだ。生きる悩みや困難もある。強さ一辺倒で生きられるような単純な時代ではなくなった。

 そうした脆弱(ぜいじゃく)性を分かち合って共にあり、希望を信じて共に行動していく。そこにこそ、新しい共同体の針路がある。「人と和す」行動重要

 ここで故人の言葉を紹介したい。アフガニスタンやパキスタンの奥地に出向き、干ばつや戦火の中で医療支援に着手し、晩年は灌漑(かんがい)事業による農村復興に尽力したペシャワール会の医師、中村哲さん(享年73)のものだ。

 「『信頼』は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる」(「天、共に在り」)

 致命的な大干ばつと飢餓が襲い、医療活動だけでは限界があると、同会は暴れ川であるクナール川の治水に乗り出した。現地の男たちがつるはしを持ち、人力で石を運ぶ。幾度の水害に見舞われながらも十数年後の用水路流域には緑の大地がよみがえった。復讐(ふくしゅう)心と貧困から戦地の前線に立っていた男たちは武器を手放し、帰農してきた。

 「生き延びようとする意欲と良心的協力が結び合い、猛烈な努力で結実した」「平和は座して待つものでなく、体当たりで得ることを知った」(「希望の一滴」)

 武装して身を固めるところに平和はない、「人と和」して信頼関係をつくることが平和と生活の安定への確かな道である―。そう訴える中村医師の、丸腰で通した生涯から学ぶべきことは多い。

 昨年12月末の知事選で、河野俊嗣氏(58)が激戦を制し4選を決めた。山積する課題の根底には、少子高齢化という難題が横たわる。当選後、「強みを磨き、生かすのは地域づくりの基本」と意気込みを見せた。

 物事には光があれば影もある。低所得や貧困にあえぎ、老いや病に悩む県民もいる。光と影の双方にしっかりと目を配り、県民と「共にある」政治家像を築き上げてほしい。

 県民が平和と生活の安定を実感できるように、政治や県民一人一人が現実を変えていく。自然や他者と折り合いをつけて生きる心、他者をおもんぱかる謙虚さを取り戻し、わずかでも「人と和す」具体的行動を重ねていきたい。これから生まれ来る次世代により良き社会を残すためのきょうの一歩。それが明日につながり、うねりを起こす力になると信じたい。

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