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県内文化の動き

2023年1月13日
◆暮らしに根差す活動指針を◆

 新型コロナウイルスに伴う行動自粛の影響を受け続けながらも、文化芸術活動は本来の目的と意義を取り戻す方向へと歩みを進めている。そんな中、本県の山の暮らしに根付いた伝統文化を照らす朗報が昨年末、もたらされた。

 五ケ瀬町坂本地区で400年以上伝承される「荒踊」など、24都府県41件の民俗芸能「風流踊(ふりゅうおどり)」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産リストに登録された。荒踊は、武者などの格好をした地区住民約60人が列を組んで踊る形態を守り続けており、世襲や集落ごとに定めた役回りを残すユニークな伝統芸能だ。住民の宝が人類共通の宝としても認められたことを喜びたい。

 本県ではほかにも、各地に伝わる神楽を無形文化遺産に登録しようという動きが後に続く。こちらも全国の保存会と足並みをそろえており、昨年10月に協議会が発足。2026年度の登録を目指す。いずれの活動も、登録がゴールではない。真の目的である安定的な保存・継承につながるよう、関係者の結束を固める機会としてほしい。

 伝統芸能をはじめとする本県の文化・芸術の力を、どう高めていくか。方向性を定めるため、県は本年度「みやざき文化振興計画」の策定を進める。昨年3月に制定した県文化振興条例に基づき、23~26年度に取り組む施策の基本方針を示す。

 コロナ禍による活動停止、そして感染が収束しない中でも国民文化祭、全国障害者芸術・文化祭など各種イベントを開催し、参加した経験を通して、私たちは文化・芸術に「触れないこと」と「触れること」の意味を自覚した。眼前の作品や公演に感動し、他者に共感したり違いを認め合ったりする心の動きが、日常生活を豊かにしていると強く意識した人は少なくあるまい。暮らしの中に文化・芸術がある幸せを多くの人が実感できる社会づくりに向けた指針が、県の計画には求められる。

 今年はもう一つ、留意することがある。県立芸術劇場が天井の耐震化工事のため、今年の夏から来年にかけて休館する。11年の東日本大震災を受けて改正された建築基準法施行令の規定への適合を図る、必要な改修だ。同劇場はすでに今年夏以降の利用予約を停止しており、大きな混乱はないとみられる。

 ただ、来年の宮崎国際音楽祭をはじめ、例年行っている音楽、演劇系のシリーズ企画などの扱いについて、劇場は現時点で明らかにしていない。文化・芸術に触れ、発信する場と機会を広く提供するのが、公共施設の大きな役割だ。県内の関係組織や団体と連携、協力し、鑑賞機会を確保してもらいたい。

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