ホーム 社説

国際展望

2023年1月19日
◆新興国含め和平の道を探れ◆

 ウクライナの戦火が年を越した。市民の犠牲が後を絶たず、和平への糸口は一向に見えない。異常気象や感染症の脅威にさらされ、国際協調が強く求められる。国際社会が知恵を絞り行動を起こすときだ。

 台湾を巡って対立を深めるバイデン米政権と中国の習近平指導部の関係は今年も焦点になる。昨年暮れ、南シナ海で中国軍の戦闘機が米軍の電子偵察機に約6メートルまで異常接近する憂慮すべき事態が起きている。

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、韓国を攻撃する核兵器の大量生産や、米本土に到達する新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発の方針を掲げた。国連安全保障理事会決議に反し地域を不安定化させる無謀な企てであり、ロシアのウクライナ侵攻で安保理が機能不全に陥った現状につけ込む動きだ。

 多くの国々で平和が挑戦を受け、人権状況が悪化している。国軍がクーデターで実権を奪ったミャンマーでは、民主派が武装闘争に立ち上がって内戦の様相を強めた。アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは約束を破って、大学での女子教育と、非政府組織(NGO)女性職員の出勤の停止を命令した。

 イランでは女性のスカーフ着用を巡る抗議デモが弾圧を受け、イラン核合意の修復に向けた米国とイランの間接協議も停滞している。イスラエルのネタニヤフ元首相主導で発足した連立政権は史上最も右寄りで、対パレスチナ強硬策が地域の安定を揺るがす懸念が強い。

 欧州では、昨年スウェーデンやイタリアの総選挙で目立った自国中心主義の右派勢力の台頭が各国で続いている。対ロ制裁によるエネルギー事情の悪化など重圧が強まった場合、ウクライナ支援で見せた欧州の結束を保てるか予断を許さない。

 エネルギーや食料の需給逼迫(ひっぱく)で最も苦しんでいるのが発展途上国だ。歴史的な洪水被害を受けたパキスタンなど温暖化の影響も拡大。先進国に対して「温暖化に重い責任があるのに対策が不十分」「新型コロナウイルスワクチンの獲得競争を繰り広げ、途上国は後回しにされた」といった声が渦巻く。先進7カ国(G7)主導の対ロ制裁に同調する途上国がほとんどない背景にあるこうした不満について、もっと目配りが必要だ。

 左派政権が近年増えている中南米では、ブラジルの左派のルラ元大統領が政権に返り咲き、新年とともに就任した。中国、ロシア、インド、南アフリカと構成する新興5カ国(BRICS)の枠組みを重視し、ウクライナの和平仲介にも意欲を見せている。和平への道は困難を伴うが、中国、インドを含め多くの国々の協力を求めたい。

このほかの記事

過去の記事(月別)