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コロナ5類移行

2023年1月24日
◆不信招かぬよう説明尽くせ◆

 岸田文雄首相は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、今春に季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げると表明した。屋内でのマスク着用ルールも原則不要とする方向で見直す。政府のコロナ対策の大きな転換と言える。

 内閣支持率低迷に悩む首相は、春の統一地方選などに向け「出口戦略」を示して政権浮揚を図る意図がないと言い切れるか。国民の不信を招かないよう説明を尽くすべきだ。

 新型コロナは感染症法上、結核などの2類より幅広い措置が取れる「新型インフルエンザ等感染症」の位置付けだ。全国的に急速にまん延し、国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れがあることが要件だが、オミクロン株への置き換わりやワクチン接種の普及で致死率が低下し、もはや該当しなくなったと首相は判断したのだろう。

 根拠として、昨年末から年明けにかけ公表された厚生労働省の専門家組織の見解を挙げた。その結論は確かに「段階的に移行すべきだ」だった。だが、これは加藤勝信厚労相から5類に移行する前提で影響、対策を問われたのに対し答えたのが実態だ。「インフルと同様の対応が可能になるにはもうしばらく時間がかかる」とした専門家の見解は、むしろ医療逼迫(ひっぱく)時の入院調整機能を維持するため一気の移行は避けるべきだという警鐘に力点があったと解すべきだ。

 ただコロナが5類に移行すれば、感染者はインフル患者と同様に、発熱外来があり行政が指定する医療機関以外も受診が可能となる。一部病院に殺到して医療が逼迫する状況が防げると自治体などが求めていた経緯もある。

 だが、今回の経緯で留意すべきは、5類移行の発火点が財政事情だったことだ。財務省の財政制度等審議会分科会は昨年11月、全額国費で負担しているコロナワクチン接種について「特例的な措置は廃止すべきだ」との見解を表明。主な施策だけで約17兆円に達したコロナ医療への支出に国の財政はこれ以上、耐えられないという指摘だ。

 政府は2023~27年度に防衛費を17兆円程度上積みし、5年間の総額を約43兆円とする計画。さらに27年度以降は、年1兆円強の増税で防衛費増額の財源を確保する方針だ。ほかに首相は、子ども関連予算の「将来的な倍増」も表明。ウィズコロナへ急ぐ背景に、こうした財政状況があるのは間違いない。

 5類になれば医療費は原則自己負担となるが、政府は経過措置として当面公費負担を続け、公費でのワクチン接種も継続する方針だ。重症化して苦しむ目の前の高齢コロナ患者らを救うことを最優先してほしい。

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