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次期日銀総裁

2023年2月16日
◆金利政策の弊害に向き合え◆

 日銀の黒田東彦総裁が4月に任期満了となるのに伴い、政府は次期総裁に元日銀審議委員の植田和男・共立女子大教授を充てる人事案を衆参両院の議員運営委員会理事会に提示した。

 黒田氏が率いた大規模な金融緩和は日本経済を下支えする一方で、物価目標は達成できず、財政規律が緩むなど多くの弊害をもたらした。次期総裁には、その正常化と国民を向いた金融政策を望みたい。

 日銀は2013年4月、就任直後の黒田総裁の下で「異次元」と称する大規模緩和を決定。デフレ脱却へ「2%の物価上昇目標を2年で達成する」と強調した。しかし目標には届かず、16年に短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導する追加の緩和策を導入し、今に至る。次期総裁がまず取り組むべきは、10年間にわたった異常ともいえる超低金利政策の修正とその正常化だ。

 国内景気は新型コロナウイルス禍の影響が残り、緩和的な金融政策が求められる点は言うまでもない。だが今の政策をこの先も続けて弊害を増大させることは許されまい。

 深刻なのは、長期金利の低下に伴う財政規律のかつてないほどの緩みだ。政策の狙いは投資の活発化などにあったが、金利抑制には国債の大量購入を伴い、結果的に政府や与党の国債発行への危機感を薄れさせてしまった。いまや国債残高の半分以上を日銀が保有する「財政ファイナンス」と言える状態で、独立性を揺るがしている。

 さらに、短期金利をマイナスにするほどの金融緩和の必要性についても議論してほしい。長く続ければかえって競争力に劣る企業を助長し、成長力を損なうと指摘される。過度の緩和が見直されれば円安のデメリットが修正され、物価抑制につながることが期待できよう。

 アベノミクスの看板を担った異次元緩和は、市井の人々よりも、政権や与党、大企業を向いたものになりがちだった。緩和策としての上場投資信託(ETF)などの大量購入は、株と不動産の価格上昇に貢献。政権や投資家は歓迎したが、そのツケは市場をゆがめた。

 超低金利と円安の恩恵は一部企業に限られ、国民は預貯金金利の消滅と、物価高でも手を打とうとしない「物価の番人」を嘆くしかなかった。異次元緩和は、金融政策が「魔法のつえ」でないことを証明した。

 日銀の追求した賃上げを伴う物価上昇は実現せず、成長力も高まらなかった。政府と日銀は、この重い事実にきちんと向き合わなければならない。2%目標を定めた政府・日銀の共同声明の見直しに加え、アベノミクス路線の転換が必要になる。

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