気球撃墜の要件緩和
2023年2月22日
◆米中対立に引きずられるな◆
中国の偵察用気球とみられる物体が日本上空を飛行していた事態を受け、政府は自衛隊法の解釈を実質的に変更し、領空侵犯した気球などを撃墜できるよう武器使用の要件を緩和すると決めた。過去に飛行が確認された時には「安全保障上の脅威ではない」としてきた見解を一転させるものだ。米軍が今月初旬、気球を撃墜したのを受けた方針転換だろう。
岸田文雄首相は衆院予算委員会で、2019年11月以降に日本領空で確認された物体に対して「中国が飛行させた無人偵察用気球だと強く推定される」として、中国政府に再発防止を求めたと述べた。これに対し、中国側は「確かな証拠もないのに侮辱した」と反発している。
今、日本政府が行うべきは、中国側に徹底的に透明性を求めるとともに、対話を通じて冷静に対応することだ。
気球のみならず無人機(ドローン)への対応も国際社会の課題となっている。国際的な管理のルール作りも必要だ。今年、先進7カ国(G7)の議長国であり、国連の非常任理事国となった日本政府がその役割を主導するよう求めたい。
中国の偵察用気球と推定される物体は、19年11月に鹿児島県、20年6月に宮城、福島両県、21年9月に青森県で目撃された。ただ、20年当時の河野太郎防衛相は「安全保障に影響はない」と述べていた。
自衛隊法84条は外国の航空機が領空を侵犯した場合、着陸や退去をさせるための「必要な措置」を講じられると規定。武器使用は正当防衛や緊急避難の場合に限って認めてきた。戦闘機など有人の航空機への対処が前提で、気球や無人機は想定されていなかった。今回、政府は「地上の国民の生命・財産の保護」と「航空路を飛行する航空機の安全確保」のために必要と判断した場合は武器使用を認めると要件を緩和する案を与党に提示、了承された。
しかし課題は多い。4日に米軍が撃墜した偵察用とみられる気球の高度は約1万8千メートルと、1万メートル付近を飛ぶ民間航空機よりもはるかに高く、安全の障害とは言い難い。国民の生命・財産に危害を及ぼす恐れは、どう判断するのか。
技術的な課題もある。航空自衛隊の幹部は「気球の撃墜は能力的に可能だ」とするが、実際には高高度を飛行する気球を撃墜する訓練は行っていないという。気球の搭載物が何か分からず、地上に落下した破片による被害も想定する必要がある。
米国内でも今回の撃墜に関して、米中の対話拡大こそが必要だとの声が出ている。日本も米中対立に引きずられることなく、冷静に対処すべきだ。
中国の偵察用気球とみられる物体が日本上空を飛行していた事態を受け、政府は自衛隊法の解釈を実質的に変更し、領空侵犯した気球などを撃墜できるよう武器使用の要件を緩和すると決めた。過去に飛行が確認された時には「安全保障上の脅威ではない」としてきた見解を一転させるものだ。米軍が今月初旬、気球を撃墜したのを受けた方針転換だろう。
岸田文雄首相は衆院予算委員会で、2019年11月以降に日本領空で確認された物体に対して「中国が飛行させた無人偵察用気球だと強く推定される」として、中国政府に再発防止を求めたと述べた。これに対し、中国側は「確かな証拠もないのに侮辱した」と反発している。
今、日本政府が行うべきは、中国側に徹底的に透明性を求めるとともに、対話を通じて冷静に対応することだ。
気球のみならず無人機(ドローン)への対応も国際社会の課題となっている。国際的な管理のルール作りも必要だ。今年、先進7カ国(G7)の議長国であり、国連の非常任理事国となった日本政府がその役割を主導するよう求めたい。
中国の偵察用気球と推定される物体は、19年11月に鹿児島県、20年6月に宮城、福島両県、21年9月に青森県で目撃された。ただ、20年当時の河野太郎防衛相は「安全保障に影響はない」と述べていた。
自衛隊法84条は外国の航空機が領空を侵犯した場合、着陸や退去をさせるための「必要な措置」を講じられると規定。武器使用は正当防衛や緊急避難の場合に限って認めてきた。戦闘機など有人の航空機への対処が前提で、気球や無人機は想定されていなかった。今回、政府は「地上の国民の生命・財産の保護」と「航空路を飛行する航空機の安全確保」のために必要と判断した場合は武器使用を認めると要件を緩和する案を与党に提示、了承された。
しかし課題は多い。4日に米軍が撃墜した偵察用とみられる気球の高度は約1万8千メートルと、1万メートル付近を飛ぶ民間航空機よりもはるかに高く、安全の障害とは言い難い。国民の生命・財産に危害を及ぼす恐れは、どう判断するのか。
技術的な課題もある。航空自衛隊の幹部は「気球の撃墜は能力的に可能だ」とするが、実際には高高度を飛行する気球を撃墜する訓練は行っていないという。気球の搭載物が何か分からず、地上に落下した破片による被害も想定する必要がある。
米国内でも今回の撃墜に関して、米中の対話拡大こそが必要だとの声が出ている。日本も米中対立に引きずられることなく、冷静に対処すべきだ。