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ウクライナ侵攻と日本

2023年2月28日
◆中間国とも粘り強く結束を◆

 ロシアのウクライナ侵攻から1年に当たり、先進7カ国(G7)首脳は今年議長国となった日本が主催するテレビ会議を開き、ウクライナ支援と対ロ制裁で結束を強化する方針を確認した。テレビ会議には冒頭、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加した。

 昨年2月の侵攻以降、日本はウクライナに対して人道支援や復旧・復興支援を行い、ドローンや防弾チョッキなども提供。岸田文雄首相が20日に発表した55億ドルを含め、総額は計71億ドルになる。議長国の今年は、さらにG7を主導していく責務を担う。1月から国連安全保障理事会の非常任理事国となった立場も併せ、G7だけでなく幅広い国際社会の結束強化への取り組みが求められる。

 戦争の終結にはウクライナが侵攻された地域を奪還し、ロシアの占拠を許さないことが前提となる。このため、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は戦車の供与など軍事支援を加速。ただ、日本は防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針によって戦車など殺傷能力を持つ武器は供与できない。

 政府や自民党には、輸出できる武器を広げるよう三原則を見直す動きがあるが、原則は崩すべきではない。平和国家の基本理念を堅持し、日本ができる貢献を尽くすべきだ。

 その最大の役割は、対ロ制裁に距離を置く国々への支援を通じて、協力を取り付けることだろう。国連総会は23日の緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退を要請する決議を、193カ国のうち141カ国の賛成多数で採択した。ただ、中国やインドなど32カ国は棄権し、北朝鮮など7カ国が反対した。

 国際社会は一枚岩ではない。特に「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米などの新興国や発展途上国には対ロ制裁から距離を置く国が少なくない。こうした「中間国」はそれぞれ欧米各国やロシアと歴史的なつながりがある。G7側の理屈を一方的に押し付けても理解は得られまい。

 中間国が抱える貧困や感染症、気候変動、侵攻の影響を受けたエネルギーや食料問題などでの支援を通じて、粘り強く結束を広げる必要がある。それこそが日本の役割ではないか。

 先のバイデン米大統領の電撃訪問で、G7首脳の中でウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問していないのは岸田首相だけになった。5月の広島サミット(首脳会議)までに訪問機会を探ることになろう。ただ、訪問自体が目標になるのは本末転倒だ。重要なのは実効性のある支援と制裁であり、戦争終結に向けた「出口戦略」である。

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