ホーム 社説

諫早湾干拓

2023年3月8日
◆国は「宝の海」復活へ対策を◆

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防にある排水門は、最高裁の決定を受けて開門されないことで事実上決着した。だが、漁業不振の原因究明のため開門を求める佐賀県の漁業者らと、塩害を理由に反対してきた干拓地の営農者らとの対立が終わるわけではない。

 野村哲郎農相は「よかったの一言。賛成派と反対派で話し合いを進めて、豊かな海を取り戻していただきたい」と述べた。国が地域の分断を引き起こしたという、当事者としての認識が乏しい発言だ。もともと諫早湾の奥部には広大な干潟があり、多様な生物を育む「生命のゆりかご」として水質の改善など多くの役割を果たしてきた。

 農水省は1997年、漁業者や自然保護団体が反対する中、大型鋼板を次々と落とす「ギロチン」と呼ばれる方法で堤防を閉め切り、その内側に3千ヘクタールを超える干拓農地と淡水の調整池を造った。国のこの強硬な姿勢が地域に深刻な分断を招き、有明海の再生をより難しくしてきたことを反省すべきだ。

 国は86年に干拓事業に着手した。有明海の魚類漁獲量は87年をピークに減少している。アサリの漁獲量もじり貧で、高級な二枚貝のタイラギはほとんど取れなくなった。養殖ノリの収穫量も年によって大きく違う。「宝の海」の姿はもうない。

 漁業者らが、原因の一つに干拓事業があると考えても不思議はない。閉め切りが有明海の生態系にどう影響したかを開門によって検証できれば、不漁の要因を解明できたかもしれない。今後は影響の分析と環境改善の方策を探るよう国に求める。

 有明海のノリ不作を契機として国は、有明海・八代海再生特別措置法をつくり2002年に施行した。福岡、佐賀、長崎、熊本などの沿岸各県は、環境の保全や改善、水産資源の回復と漁業振興を盛り込んだ計画を策定し、対策を実行してきた。しかし漁業の現状を見ると成果は不十分だ。国はもっと自らの責任として自治体、漁業者らに積極的に働きかけ、リーダーシップを発揮しなければならない。

 有明海では近年、エイ類によるアサリの食害が深刻化している。エイ類の駆除や食害防止などの対応を急ぎたい。地球温暖化による豪雨の増加、気温・水温の上昇による影響も出てきたとされる。水温の上昇に伴って取れる魚の種類が変化することがあり、モニタリングしながら対策を練らなければならない。

 ノリは水温の上昇に適応できない可能性がある。新しい品種や養殖技術の開発が不可欠であり、国は関係者の協力を求めながら対策の先進地を目指してほしい。それが豊かな海の復活につながるはずだ。

このほかの記事

過去の記事(月別)