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全国的な識字調査

2023年3月10日
◆学び直しの機会拡充を急げ◆

 日本語の読み書きに不安を抱えながら暮らしている人はどれくらいいるのか。国立国語研究所が全国規模の識字調査を計画している。そのような調査は戦後間もない1948年に米国の教育使節団からの提案で、15~64歳の約1万7千人を対象に実施され、日本人の識字率は極めて高いとする報告書がまとめられて以来、行われていない。

 国内の識字率は長らく、ほぼ100%といわれてきたが、昨年5月に公表された2020年国勢調査では、最終学歴が小学校など「義務教育未修了」の人が90万人近くに達した。

 文部科学省は不登校の児童生徒や、戦後の混乱期に義務教育を受けられなかった高齢者、さらに増え続ける外国人の働き手と家族に基礎的な教育の機会を保障する場として、夜間中学を重視。21年2月から全都道府県と政令指定都市に設置を促すものの、昨年4月時点で公立校は15都道府県の計40校にとどまる。宮崎市では夜間中学の24年度設置に向けて検討が進む。

 全国調査に先立ち、国語研は昨年7月、岡山市にある岡山自主夜間中学校で全90問から成る熟語や漢字のテストを10~80代のスタッフや生徒約40人に実施。生徒の平均点は79・3点で、28点が最低点だった。担当者は「生徒の2割程度が識字に問題を抱えている可能性がある」とみている。今後、他の公立・自主の夜間中学や日本語教室でも調査を重ねながら内容を見直し、無作為の全国調査につなげたいとしている。

 識字調査が動き出すきっかけになったのが、20年国勢調査だった。小学校にも中学校にも在学したことがないか、小学校を中退した「未就学者」は前回15年調査の約12万8千人から減り、約9万4千人。ところが初めて回答項目に加えた「最終卒業学校が小学校」を選択した人が約80万4千人にも上り、義務教育未修了が90万人に迫った。

 さらに不登校の急増が深刻な影を落とす。文科省によると、全国の国公私立小中学校で21年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は24万4940人。前年度より4万8千人余り増え、過去最多となった。十分に学べない「形式卒業者」が増える恐れもある。文科省は夜間中学とともに、不登校の子どもに適した特別な教育課程を組める不登校特例校の設置を目指すが、昨年12月時点では、まだ10都道府県計21校に過ぎない。

 国は人材、資金の両面から夜間中学の設置をこれまで以上に後押しするなど学び直しの機会拡充を急ぐ必要がある。公立校と、ボランティアらが運営する自主校などと連携し、学びのセーフティーネットを整備していくことも考えたい。

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