ホーム 社説

キーウ電撃訪問

2023年3月24日
◆日本ができる支援に全力を◆

 岸田文雄首相がウクライナを電撃訪問した。今年、先進7カ国(G7)の議長国となった日本だが、2月にバイデン米大統領がウクライナを訪問し、G7の中では唯一ウクライナを訪問していない首脳となっていた。

 5月のG7首脳会談(広島サミット)では、ウクライナ情勢が最大のテーマになる。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、首相が現地を訪問するのは初めて。日本としては「法の支配」の基本的価値を共有するG7の結束を踏まえ、ウクライナ支援を継続していくべきだ。

 ウクライナ情勢を巡っては、中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行うなど、外交的な駆け引きが激しくなっている。

 日本政府はこれまで人道支援や復旧・復興支援として計71億ドル(約9300億円)の支援を行ってきた。欧米各国は戦車の供与に踏み切り、ポーランドなどは旧ソ連製の戦闘機の供与も行っている。

 しかし、日本は欧州に比べて地理的に距離があるのに加え、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針によって、殺傷能力を持つ武器は供与できない。これまでカンボジアなどで実績を積んできた地雷除去の技術支援をウクライナでも行っているように、日本としてできる支援に全力を尽くすべきだ。

 国際社会の中には、ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁から距離を置く国も少なくない。特に「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米などの新興国や発展途上国には、そうした国がある。過去の欧州各国の植民地支配や、ロシアとの歴史的関係もあり、こうした国々に先進国の理屈を一方的に押し付けても、理解は広がらないだろう。

 岸田首相はインドで行った講演で発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の実現に向けた新計画で、ロシアと中国の動向を念頭に国際秩序維持の重要性を訴え、海と空の安全確保への支援強化と政府開発援助(ODA)拡充で、官民で2030年までに750億ドル以上の資金をインド太平洋地域に投入すると表明した。

 貧困や気候変動、感染症などの課題を抱えるグローバルサウスの国々への粘り強い支援の継続に、日本として重点的に取り組むべきだろう。それが日本の役割と言える。

 岸田首相の電撃的なウクライナ訪問が、日本の国内向けの政治アピールであってはならない。G7議長国であり国連安全保障理事会の非常任理事国である日本が、国際秩序の安定を主導する姿勢を国際社会に向けて明確に示したい。

このほかの記事

過去の記事(月別)