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海外移植あっせん事件

2023年3月27日
◆違法業者の暗躍封じ込めよ◆

 海外での臓器移植を無許可であっせんしたとして、東京のNPO法人の理事が逮捕、起訴された。この容疑での立件は全国初という。患者2人にベラルーシで移植を受けるよう促し、渡航や手術の費用として多額の現金を支払わせたとされる。

 事件を受け加藤勝信厚生労働相は、渡航移植の現状把握に向けた実態調査に乗り出すと表明。だが実は、国がこうした対応に追われる事態となったのは初めてではない。

 海外での臓器移植の仲介業者とみられる人物が2009年11月、北陸地方のある大学病院の医師に面会し、同病院に入院中の男性患者が中国で移植を受けられるよう協力を要請したことが判明。医師はその後、紹介状を書いて患者に渡していた。

 渡航移植に関し、国によっては臓器売買など倫理的な問題を抱えているとの指摘がある。通常、日本の医療現場は関与することに極めて慎重とされ、医師の行為は異例の対応と言える。

 この事実が翌10年1月に明らかになると、厚労省は緊急の実態調査を実施。対象の全国約250医療機関のうち関東や近畿の4施設が、過去数年間に違法業者とみられる不審な団体や個人から、患者に関する情報提供を求められたと報告した。

 当時、関係者から「業者はアンタッチャブルな存在。協力した病院があったとしても、正直に答えるとは思えない」との声が聞かれた。調査で見えたのは氷山の一角ではなかったか。

 無許可の仲介業者を頼る移植は不透明な点が多い。医療設備や衛生面などに不安があるだけでなく、術後ケアも不確かだ。今回の事件では、都内の40代の男性患者が昨年2月に現地で肝臓移植を受けたものの、その後に体調が悪化、帰国して家族から生体肝移植を受けたが回復せず亡くなった。

 13年前の実態調査を通じて同省は、怪しげな渡航移植のあっせんが広がりかねない危険を認識したはずである。にもかかわらず抜本的な対策を怠ったまま時が過ぎ、不適切な仲介行為の横行を許してしまった。

 理事が所属するNPO法人は07年に設立され、百数十人に海外移植を案内したとホームページで説明。国内で移植を受けられない以上、リスク承知で仲介業者を頼らざるをえないという厳しい現実を指し示しているかのようだ。国は、いつまで傍観を続けるのか。

 岸田文雄首相は事件への認識について「重大な問題で大変遺憾」と今国会で答弁した。悲劇を繰り返さないためには最低限、患者を惑わす違法なあっせん業者の暗躍を封じ込める環境整備が不可欠だ。早急に手だてを講じてもらいたい。

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