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IPCC統合報告書

2023年4月6日
◆科学の警告 目をそむけるな◆

 「気候変動は人間の幸福と惑星の健康に対する脅威であり、全ての人々にとって住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に閉ざされようとしている」。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、最新の「統合報告書」を発表し、深刻化する気候危機に対して厳しく警告した。

 IPCCは、この10年間の行動が気候変動の将来を左右するとも指摘。岸田文雄首相をはじめとする世界のリーダーは、自らが将来世代の幸福と地球の未来に対する大きな責任を負っているという事実を深刻に受け止め、これまでの気候危機対策を根本から見直す必要がある。

 報告書は、産業革命以来の平均気温の上昇を1・5度に抑えることは極めて困難になったと明言。地球温暖化防止のためのパリ協定に基づいて各国政府が表明している30年までの排出削減では、上昇を2度に抑えることも困難だとした。

 IPCCは「この10年間に行う選択や実施する対策が、現在から数千年先まで影響を持つ」と指摘。科学者の組織であるIPCCが、これほどまでに明確な言葉で、気候変動への危機感を示したことはかつてない。

 時間に余裕がないのは、積み重なる科学的な証拠を前にしながらも、各国の対策が全く足りなかったからだ。今や従来の対策の延長線上では不十分で、石炭火力発電はもちろん、全ての化石燃料への投資を早期にやめ、エネルギーシステムを根本から変革することが急務だ。

 日本の気候危機対策の遅れも大きな問題だ。多くの先進国が石炭火力発電の廃止を決める中、日本では新規の発電所の運転開始が相次ぐ。岸田政権は「原発の最大限の活用」やアンモニアや水素という新技術の開発でCO2排出のない火力発電を実現する、といった方針を掲げるが、これらの対策が今後10年間の大幅な排出削減にほとんど貢献しないことは明白だ。

 一方で、IPCCが、最もコストが低く、削減効果が大きいとする再生可能エネルギー拡大のための政策は、極めて不十分だ。ここ数年、先進7カ国(G7)首脳会議では気候変動問題が最重要課題の一つとされてきた。今年の議長国の日本は脱石炭、脱化石燃料の取り組みでG7の中で最も遅れており、この問題を本格的に取り上げることに消極的だ。

 日本には技術も資金もあり、再生可能エネルギーの資源も豊富だ。にもかかわらず、科学の声に耳を貸さず、深刻化する気候危機から目を背けるような姿勢を続ければ、日本のリーダーは「将来世代に対して無責任な人間だった」とのレッテルを貼られることになるだろう。

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