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強制不妊と国の責任

2023年4月7日
◆敗訴受け入れ救済に努めよ◆

 旧優生保護法下で不妊手術を強いられたなどとして、障害者らが国に損害賠償を求めた各地の訴訟で、国敗訴の判決が相次いでいる。昨年2月から今年3月にかけて大阪、東京、札幌の3高裁で計4件。熊本、静岡、仙台の3地裁でも1件ずつあり、いずれも不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を認めなかった。

 除斥期間は法律関係を早期に確定させ、争いを長引かせないため機械的に適用されてきた。しかし原告の多くは1948年施行の旧法により10代で手術を施された。国の不法行為とは認識できなかっただろう。年齢を重ね、あまりの理不尽さに声を上げようとしても、差別と偏見がはびこる中では難しかった。

 20年はあっという間に過ぎた。訴訟は2018年1月から各地で起こされたが、当初は地裁レベルで除斥期間経過を理由に請求を退ける判決が続いた。そんな中、初めて国に賠償を命じた昨年2月の大阪高裁判決を境に流れが変わり、除斥期間の機械的な適用について「著しく正義・公平の理念に反する」との司法判断が定着しつつある。

 ただ国はいまだに旧法の違憲性を認めようとせず、かたくなに控訴と上告を繰り返して争う構えを崩さない。

 先月下旬、兵庫県の夫婦ら計5人が起こした訴訟の控訴審判決で大阪高裁は、請求を退けた一審判決を変更。旧法を違憲とした上で除斥期間を適用せず、国に計4950万円の賠償を命じた。不妊手術をされた3人には1430万~1650万円、配偶者の2人に220万円ずつを認めた。

 注目すべきは、除斥期間の影響を受けることなく提訴できる期間を巡り「国が旧法を違憲と認めるか、最高裁判決で違憲性が確定してから6カ月以内」と判示した点だ。被害救済に向けて一時金支給法が19年4月に施行されてから5年間は賠償請求をできるとした昨年3月の東京高裁判決より踏み込み、提訴可能な期間を大幅に延ばした。

 そもそも国側は、なぜ法廷で旧法の違憲性を認めないのか。「不良な子孫の出生防止」を掲げ、子どもを産み育てる権利を奪う旧法の違憲性は明白だが、国側の答えは「合憲か違憲かは争点にならない」だった。

 旧法は1996年まで存続し、約2万5千人が不妊手術を受けたとされる。国は国策として障害を理由に人に優劣をつけ、人権侵害を重ねるという取り返しの付かない過ちを犯した。その責任が除斥期間の経過のみで不問に付されることはないとの司法判断を重く受け止め、政治判断による上告取り下げも含めて調整と検討を急ぐべきだ。

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