「同志国」軍の支援
2023年4月12日
◆紛争加担への懸念拭えない◆
政府は開発途上国の中で民主主義などの価値観を共有する「同志国」の軍を直接支援する新たな制度「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の創設を決めた。
非軍事分野に限られている政府開発援助(ODA)ではできなかった途上国への軍事支援の枠組みで、2023年度はフィリピンとマレーシア、バングラデシュ、フィジーの4カ国を予定。警戒監視用レーダーなどの資機材を無償提供する。
政府は「日本にとって望ましい安全保障環境をつくり出すには、同志国の抑止力向上が不可欠だ」と説明する。だが、アジアや太平洋地域に位置する対象国を見れば、海洋進出を続ける中国に対抗する狙いは明らかだろう。日本の資源輸送に重要なシーレーン(海上交通路)防衛の狙いも浮き彫りになる。
日本の安全保障や国益を前面に押し出していく支援が、地域の対立を助長することになってはならない。
OSAの実施方針は「平和国家としての基本理念を維持」すると明記はしている。だが支援対象国が将来、戦闘状態に陥ったりすれば支援物資が紛争に使われ、結果的に日本が紛争に加担することになりかねない。その懸念が拭えない。
ODAの戦略的活用やOSAの創設は、昨年12月に岸田政権が改定した「国家安全保障戦略」に盛り込まれていた。政府は国家安全保障会議(NSC)の9大臣会合でOSA創設を決めたが、途上国支援の根本的な政策転換であり、国会でしっかりと議論すべきだ。
OSAで提供する資機材は「国際紛争との直接の関連が想定し難い分野」に限定するとして、領海・領空の警戒監視や災害対処・捜索救援などの人道目的、国連平和維持活動(PKO)の能力強化―などを挙げている。防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」に従って、戦闘機など殺傷能力のある武器の提供は含まないとしている。
ただ一方で、政府、与党は装備移転三原則の運用指針を緩和する方向で、今月下旬から与党協議を始める予定だ。政府、自民党はロシアの侵攻を受けたウクライナなど「侵略を受けた国」への殺傷能力のある武器の輸出解禁を主張している。運用指針が見直されれば、OSAでも殺傷能力のある武器提供に踏み出すことになりかねない。
そもそも「同志国」とはどの国なのか、定義が曖昧であることも懸念材料だ。ODAは戦後日本が「平和国家」として途上国に協力し、友好な関係を築く重要な政策だった。新制度とODA改定には慎重な検討を求めたい。
政府は開発途上国の中で民主主義などの価値観を共有する「同志国」の軍を直接支援する新たな制度「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の創設を決めた。
非軍事分野に限られている政府開発援助(ODA)ではできなかった途上国への軍事支援の枠組みで、2023年度はフィリピンとマレーシア、バングラデシュ、フィジーの4カ国を予定。警戒監視用レーダーなどの資機材を無償提供する。
政府は「日本にとって望ましい安全保障環境をつくり出すには、同志国の抑止力向上が不可欠だ」と説明する。だが、アジアや太平洋地域に位置する対象国を見れば、海洋進出を続ける中国に対抗する狙いは明らかだろう。日本の資源輸送に重要なシーレーン(海上交通路)防衛の狙いも浮き彫りになる。
日本の安全保障や国益を前面に押し出していく支援が、地域の対立を助長することになってはならない。
OSAの実施方針は「平和国家としての基本理念を維持」すると明記はしている。だが支援対象国が将来、戦闘状態に陥ったりすれば支援物資が紛争に使われ、結果的に日本が紛争に加担することになりかねない。その懸念が拭えない。
ODAの戦略的活用やOSAの創設は、昨年12月に岸田政権が改定した「国家安全保障戦略」に盛り込まれていた。政府は国家安全保障会議(NSC)の9大臣会合でOSA創設を決めたが、途上国支援の根本的な政策転換であり、国会でしっかりと議論すべきだ。
OSAで提供する資機材は「国際紛争との直接の関連が想定し難い分野」に限定するとして、領海・領空の警戒監視や災害対処・捜索救援などの人道目的、国連平和維持活動(PKO)の能力強化―などを挙げている。防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」に従って、戦闘機など殺傷能力のある武器の提供は含まないとしている。
ただ一方で、政府、与党は装備移転三原則の運用指針を緩和する方向で、今月下旬から与党協議を始める予定だ。政府、自民党はロシアの侵攻を受けたウクライナなど「侵略を受けた国」への殺傷能力のある武器の輸出解禁を主張している。運用指針が見直されれば、OSAでも殺傷能力のある武器提供に踏み出すことになりかねない。
そもそも「同志国」とはどの国なのか、定義が曖昧であることも懸念材料だ。ODAは戦後日本が「平和国家」として途上国に協力し、友好な関係を築く重要な政策だった。新制度とODA改定には慎重な検討を求めたい。