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トヨタ新戦略

2023年4月18日
◆産業転換先導する役割担う◆

 社長が交代したトヨタ自動車は電気自動車(EV)の生産を拡大する新戦略に動き始めた。

 自動車は部品、素材、物流など幅広い企業が関わる。トヨタはガソリン車に加え、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、EVを開発し、全方位で産業転換に臨む。

 トヨタの2022年の新車販売台数は1048万台。このうちEVは約2万4千台にとどまる。民間調査会社によると、昨年の世界のEV販売台数は、新車全体の1割近くに上り、市場での存在感を高めている。

 出遅れが指摘されるトヨタだが、新体制ではEV開発を急ぐ方針を明確にした。年間販売台数を26年に150万台、30年には300万台に拡大する。米国では25年から現地生産を始める。生産車種には米国で人気が高いスポーツタイプ多目的車(SUV)を選んだ。

 最大市場に成長した中国でもEVの新車種を現地で開発している。新興国には特性に合わせて商用車や小型車を投入する。

 1990年代後半にHVをいち早く開発し、環境対応車の主導権を握ったトヨタは、EVの技術開発は進めてきたが、量産には慎重だった。

 ガソリンエンジンのような内燃機関とは動力が異なり、部品や仕組みがまるで違う。トヨタが一気にかじを切れば、部品メーカーは培った技術が使えなくなり、雇用に大きな影響が生じる懸念があるからだ。巨大なサプライチェーン(供給網)を築いたトヨタは新興のEVメーカーのように身軽ではない。

 中国勢の台頭も著しい。中国メーカーは日米欧にガソリン車やHVではかなわないが、高性能のバッテリーが鍵を握るEVなら覇権を握れると考え、開発を急いでいる。

 自動車の環境規制の先頭に立ち、EV普及を後押ししてきた欧州連合(EU)は35年までにガソリン車など内燃機関を使った新車の販売を禁止するはずだった。しかし最近になって、二酸化炭素(CO2)と水素を再生可能エネルギーによって合成した燃料を使う場合には、エンジン車の販売を容認する方針に変更。EV転換を急ピッチで進めることに、ドイツなどのメーカーが抵抗したためとされる。

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギー情勢は激変した。米国や欧州の環境規制もまだ揺れ動く可能性がある。

 体力のあるトヨタが全方位の開発戦略をとるのは当然だ。しかし、ほかの国内メーカーは事情が異なる。いずれは、生産車種を自分の得意分野に絞り込まねばならないだろう。「選択と集中」はもちろん、国境や業種を超えた一層の再編も視野に入れねばならない。

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