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大阪のIR計画認定

2023年4月20日
◆導入への世論 二分したまま◆

 政府は国内初の統合型リゾート施設(IR)として大阪府・市の整備計画を認定した。IRはカジノだけでなく国際会議場、展示場、ホテルなどを大規模整備する手法だ。

 カジノはインバウンド(訪日客)を呼び込む「観光立国」実現の柱として安倍政権時代に提唱され、2016年に整備推進法が成立。訪日客を増やすことに加え雇用の創出、自治体の収入確保など地域を潤す起爆剤とされてきたが、期待先行になっていないか検証が必要だ。

 世界的にはインターネットを使ったネットカジノが流行している。国内では急速な人口減少による人手不足が顕在化しており、IR構想が働き手を奪わないかも心配される。

 現在の整備手法が今後の国内の状況に合致するのか。政府には規模も含めて、改めて妥当性を点検するよう提案したい。

 大阪府・市の計画によると、25年大阪・関西万博の舞台となる大阪市湾岸部の人工島・夢洲に、米カジノ大手などが出資の新会社が整備する。

 初期投資は1兆円超。年間来訪者は国内外から2千万人、経済波及効果は年間1兆1400億円と想定する。29年を目指すカジノの開業後には、年間1千億円以上が事業会社から納付され、府・市の収入となる。推計通りであれば、ばら色である。

 このIRは府・市の首長を長年独占してきた地域政党「大阪維新の会」が、成長戦略の目玉と位置付け進めてきた。夢洲では当初想定していなかった土壌汚染や軟弱地盤などの対策に、市が約788億円負担することになった。政治主導の面が強いだけに、他にもリスクを見落としていないか危惧される。

 住民の意見を聞く点も不十分だったと指摘したい。約20万人の署名を集めて市民団体が府に直接請求したIR誘致の賛否を問う住民投票について府議会は昨年、大阪維新の会などの反対で、投票条例案を否決した。

 看板政策の「大阪都構想」では否決されても市民に是非を再び諮ったことと比べれば、維新の対応は二重基準と批判されても仕方あるまい。

 カジノ誘致には北海道、横浜市、和歌山県などが動きを見せた。横浜市では市長選の争点となり、反対派市長が当選して撤回された。政府は全国で3カ所とするが、整備計画を出したのは府・市と長崎県のみ。大阪の結末を見極め誘致するのも一つの手であろう。

 IR活性化策が時代に合っているのか、ギャンブル依存症対策は十分なのかといった懸念は根強い。導入を巡る世論は二分されたままである。推進する政府、府・市には説明責任を果たすことが求められる。

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