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首相襲撃事件

2023年4月26日
◆単独犯の脅威 万全期したい◆

 衆院補選の応援演説に和歌山市の漁港を訪れた岸田文雄首相の近くに爆発物が投げ込まれた事件で、威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者は取り調べに黙秘を続けている。そんな中、年齢などを理由に参院選に立候補できなかったのは憲法違反として昨年6月、国に損害賠償を求め神戸地裁に訴訟を起こしていたことが分かった。

 同7月に安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され、死亡。裁判所に提出した準備書面では、岸田内閣が安倍氏の国葬を閣議決定のみで強行したとした上で「このような民主主義への挑戦は許されるべきではない」などと訴えた。提訴から5カ月後に請求は棄却され、控訴していた。

 さらに銃撃事件をきっかけにクローズアップされた政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係についてもツイッターで批判していた。だが動機にどのように結び付くかは分からない。解明が待たれる。

 今回の事件でも、銃撃事件を受けて強化された警護体制に隙があったことは否めない。爆発物の威力によっては、多くの聴衆に被害が及ぶ危険があったことも忘れてはならない。

 訴訟で容疑者は、公選法が被選挙権を30歳以上に限定し、候補者に供託金300万円の納付を義務付けているため、23歳で立候補できなかったとし、国会の立法不作為を指摘。こうした問題意識は若者の間で一定の広がりを見せ、各地で違憲訴訟の動きもある。国葬批判も突出したものではない。どこで一線を越えたのか見えてこない。

 爆発物は金属製のパイプに火薬を詰め、導火線に着火して爆発させるパイプ爆弾。自作とみられる。岸田首相が演説を始めようとした時に投げ込まれた。50秒ほどして爆発、2人が軽いけがをした。

 容疑者も、銃撃事件の殺人罪などで起訴された山上徹也被告も、特定の組織に属さず、単独で犯行に及んだ。事前に動きを察知するのは困難だ。しかも爆弾の材料はホームセンターなどで手に入り、製造方法の情報もインターネット上で探せる。山上被告も動画などを参考に銃を作ったとされる。

 警察庁は今年2月、サイト管理者らに削除を要請する有害情報に「爆発物・銃器の製造」を追加するなど対策を強化している。だがネット上に膨大な情報があふれ、実効性は見通せないとの指摘もある。

 襲撃事件後、与野党幹部の遊説先で急きょ手荷物検査を行うなど厳戒態勢が敷かれた。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の警護は選挙時と異なる。とはいえ、最悪を想定して万全を期す必要がある。

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