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スーダン邦人退避

2023年4月27日
◆重要性示した各国間の連携◆

 軍と準軍事組織の戦闘が続くアフリカ北東部スーダンの首都ハルツームで退避を希望していた邦人について、日本政府は自衛隊の輸送機などを使い、全員の退避を完了させた。

 2021年にアフガニスタン情勢が悪化した際は、日本大使館員が英軍機で避難するなどし、自衛隊派遣が遅れ、邦人救出に課題を残した。

 今回は早期に自衛隊輸送機を周辺国まで派遣し、各国とも連携を強めて対応に当たった。教訓が生かされた。

 戦闘はスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で15日に始まった。巻き込まれた世界食糧計画(WFP)や国際移住機関(IOM)の職員などが死亡、国際援助活動が暗礁に乗り上げている。

 ハルツームにいた邦人とその家族計45人は、約700キロ離れたスーダン北東部の港町ポートスーダンまで陸路を移動。政府は、自衛隊の海賊対処活動拠点がある周辺国ジブチで待機させていた自衛隊輸送機を派遣し、ジブチに空輸した。

 岸田文雄首相は、自衛隊の輸送に関連して韓国とアラブ首長国連邦(UAE)、国連の協力があったと明らかにし、謝意を表した。国際社会の分断が指摘されるが、各国間の情報共有や連携がいかに重要かを示している。分断を乗り越える国際協力を築きたい。

 日本政府は今回、ジブチに自衛隊機を派遣し、ハルツームの空港から邦人を輸送する可能性を探った。邦人輸送に関してはアフガンでの失敗を踏まえて自衛隊法84条を改正。それまでの「安全に実施」するとの輸送条件を緩和し、「危険回避の対策」が講じられれば可能としていた。だがハルツーム周辺の情勢は厳しく、自衛隊機を送り込むことはできなかった。退避した邦人は結局、ポートスーダンまで陸路を長距離移動せざるを得なかった。

 米英両国などは特殊部隊をハルツームに投入し、大使館員を救出。しかし、戦闘行為につながる可能性のあるような救出活動は自衛隊にはできない。日本は憲法と自衛隊法の範囲内で可能な活動を実行すべきだ。

 国際協力のために活動する政府機関や非政府組織(NGO)などの関係者は今後も増えていくだろう。今回の邦人救出の経緯をしっかりと検証して今後に生かしたい。

 逃げ場のない多くのスーダン国民は苦境に陥っており、大規模な人道危機になる恐れが強い。平和回復へ向けた国際社会の努力を、日本も全力で後押ししたい。今年の先進7カ国(G7)議長を務め、国連安全保障理事会の非常任理事国でもある日本の役割は大きい。

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