最高裁記録廃棄
2023年6月1日
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1997年の神戸連続児童殺傷など重大少年事件の記録を全国の家裁が廃棄していた問題で、最高裁が自らの不適切な対応に起因することを認め「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせ、深く反省する」と謝罪する調査報告書を公表した。
最高裁が約30年前、保存記録の膨大化を防ぐよう周知し、各裁判所に「原則廃棄、保存は例外」の意識が定着したと認定。再発防止策として適正保存のための第三者委員会設置などを打ち出した。
記録は「国民の財産」と肝に銘じ、裁判官、書記官らの意識改革を徹底すべきだ。再発防止策を確実に実行し、司法への信頼を回復させねばならない。
少年事件記録の取り扱いについて最高裁は1964年の「事件記録等保存規程」で、少年が26歳になるまで記録を保存、史料的価値の高いものは永久保存に当たる「特別保存」とするよう各裁判所に義務付けた。
調査報告書によると、最高裁は91年ごろ、記録の保管スペース確保のため、特別保存の膨大化防止に取り組むべきだとする強いメッセージを発し、「原則廃棄」の認識を強めることになった。その後も適正化する指導をしておらず、報告書は「対応は誠に不適切」と断じている。
記録が廃棄され調査対象となった少年事件52件のほとんどは、特別保存の判断権限を持つ所長の積極的関与がないまま、漫然と廃棄されていた。
神戸連続児童殺傷事件もその一つで、当時の所長は担当者から相談を受けたものの、自分が特別保存を検討する立場にある認識がなく判断を示さなかった。結果、現場判断で廃棄されたという。
報告書は再発防止策としてまず、「保存規程に記録の意義を明記した理念規定を追加する」とした。意識改革の重要性に異論はないが、問題は実効性だ。
(1)最高裁に法曹関係者、学者、報道関係者らでつくる第三者委員会を常設し、各裁判所の判断をチェックする(2)国立公文書館への移管対象拡大や移管時期の見直し検討(3)保存期間満了を待たず、直ちに特別保存の判断手続きを進める―などを打ち出した。保管場所の確保も最高裁が支援するという。
民事裁判記録の扱いも少年事件と同じ保存規程に基づいており、廃棄事例35件が今回の調査対象となった。地下鉄サリン事件のオウム真理教に解散を命じた裁判の記録も含まれている。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求が焦点となる中、貴重な先例の記録が失われたわけだ。民事裁判記録についても再発防止策が適用される。二度と繰り返してはならない。