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ウ軍反転攻勢

2023年6月23日
◆和平への足掛かりにしたい◆

 ウクライナ軍はロシアの侵略に対して大規模な反転攻勢に着手した。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの主権を認めず、戦争犯罪を繰り返している。新たな局面を生かし、勝利と和平への足掛かりを築かねばならない。そのためには国際的な支援の拡充が不可欠だ。

 ロンドンの「ウクライナ復興会議」には日本など約60カ国が参加した。日本は自国の戦後復興の知見を生かしウクライナの再生を支え、独自の存在感を示さなければならない。

 反転攻勢はまだ始まったばかりだ。ロシア軍は幾重にも防衛線を構築して頑強に抵抗している。たとえ短期的に大きな成果が得られなくとも、支援を弱める理由にしてはならない。長期戦の覚悟を国際社会も改めて固める必要がある。

 プーチン氏の戦争目的はウクライナの属国化にあった。かいらい政権を樹立して全土を事実上の支配下に置きたかったようだ。しかし、ゼレンスキー氏がキーウに踏みとどまり、国民が勇敢に抵抗したために、この「プランA」は瓦解した。

 現在ロシア支配下にあるウクライナ東部のドンバス地方と南部のクリミア半島は、侵攻前には分断されていた。双方をアゾフ海に沿った幅広い陸路でつなぎ、東南部一帯をロシア領土と宣言したのは、全土掌握に代わる「プランB」だった。

 ウクライナの属国化という当初の課題を達成できなかった以上、ロシアが「勝利」を主張する根拠は既に大きく揺らいだ。

 さらに東部と南部の一体支配を失えば「特別軍事作戦」の成果を誇ることは極めて難しくなる。ロシアの黒海艦隊が本拠を置くクリミア半島は、黒海から欧州、中東をにらむ戦略的な要衝である。ロシア本土と接するドンバス地方と陸の回廊で一体化させたのは、半島に特有な補給面の脆弱(ぜいじゃく)性を克服するためでもあった。ウクライナ軍の反転攻勢には、この回廊を南北に分断してクリミアを再び孤立させ、侵略前の状況をできる限り回復する狙いがある。成功すれば、ロシアの侵略に「失敗」の刻印を残せる。

 プーチン氏はベラルーシに核兵器を配備して圧力を強めている。欧米が従来、戦車や戦闘機の供与に慎重だったのは、核保有国のロシアを過度に刺激したくなかったからだ。その意味でプーチン氏による「核のどう喝」は一定の効果があった。

 だが欧米が決定力がある兵器の供与を遅らせたために、戦闘は長引き市民を含む犠牲者は増え続けた。核兵器の使用を示唆すること自体が残虐性を帯びる。この現実から目をそらしてはならない。国際社会も腹を据えて関与したい。

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