ホーム 社説

沖縄慰霊の日

2023年6月24日
◆非戦貫く主体的な構想描け◆

 沖縄は昨日、78年前の太平洋戦争末期に、旧日本軍と米軍との組織的な戦闘が終結した「慰霊の日」を迎えた。

 米軍の本土上陸を遅らせるための「防波堤」とされた沖縄では激しい地上戦となり、犠牲者は20万人を超えた。沖縄県民は約12万人、4人に1人が亡くなったとされる。戦没者の氏名を刻んだ糸満市摩文仁の石碑「平和の礎」には新たに判明した365人が刻まれた。

 玉城デニー県知事は全戦没者追悼式の平和宣言で「戦争体験者が戦争の不条理と残酷さを語り継いでくれた実相と教訓を胸に刻み、あらゆる戦争を憎み、二度と沖縄を戦場にしてはならないと、決意を新たにする」と強調した。

 沖縄戦の記憶の風化が指摘されるが、沖縄では今でも多くの遺骨や不発弾が見つかる。犠牲者を悼み、あらためて非戦を誓いたい。

 玉城氏は平和宣言で「アジア太平洋地域での平和的な外交、対話による緊張緩和と信頼醸成」の必要性を訴えた。だが今、日本政府が進んでいるのは全く逆の道ではないか。ロシアのウクライナ侵攻による国際情勢の緊張や軍備増強を進める中国など安全保障環境の悪化を理由に「力に力」で対抗しようとしている。

 岸田政権が昨年12月に改定した「国家安全保障戦略」などの3文書は、南西諸島の防衛力強化に重点を置き、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も打ち出した。与那国、宮古両島に続き、今年3月には石垣島にも自衛隊駐屯地を新設、ミサイル部隊を配備した。

 沖縄本島には在日米軍専用施設の約70%が集中。極東で最大級の米軍嘉手納基地があり、さらに名護市辺野古で基地移設工事が進められている。

 3文書の改定を受け、日米両政府は自衛隊と米軍の運用一体化を加速させ、南西諸島の施設の共同使用でも合意した。米中対立の中で台湾を巡る衝突が起きれば、日本全国の在日米軍基地が攻撃対象となる。「最前線」に置かれるのが沖縄だ。

 防衛力強化の一方で、不十分なのが有事を想定した国民保護の計画だ。国家安保戦略は「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現」するとしている。しかし、宮古島、石垣、与那国の3市町だけでも10万人を超える住民を、短期間に避難させるのは不可能と言わざるを得ない。

 「平和は不確かで 脆(もろ)く崩れやすい」「かけがえのない人達を 決して失いたくはない」。追悼式で読み上げた「平和の詩」で高校3年生の平安名秋さんは訴えた。非戦を貫く主体的な構想こそが求められている。

このほかの記事

過去の記事(月別)