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犯罪被害者支援

2023年6月30日
◆支援拡充へ地域差解消せよ◆

 殺人など故意の犯罪により家族を奪われたり、心身に重い傷を負ったりした人に国から支給される犯罪被害者給付金について、政府は大幅に増額する方針を決めた。有識者会議で算定方法を見直す。併せて事件直後から公費で法的支援を受けられるようにする被害者支援弁護士制度の導入や、仮給付金のより速やかな支給なども検討する。

 大阪・北新地で2021年12月に26人が犠牲になったビル放火殺人事件の遺族を支援する団体は22年2月、岸田文雄首相宛てに「給付額が少なすぎる」として支援拡充を求める要請書を郵送。今年5月、自民党のプロジェクトチームが経済的支援の強化を柱に提言を取りまとめた。

 警察庁の集計では22年度、遺族に対する給付金の平均支給額は743万円で、交通死亡事故で平均約2400万円が支払われる自動車損害賠償責任保険の水準を大きく下回っている。引き上げが喫緊の課題なのは言うまでもないが、今回の制度見直しで全てが解決するわけではない。被害者らに近い市区町村による支援の充実が不可欠だ。

 条例に基づき、見舞金などで支援しているのは22年4月の時点で全体の3分の1程度。地域によって支援に差が出てしまう。どこに住んでいても、住宅確保や就労なども含め一定レベル以上の支援を受けられるよう条例整備を着実に進め、地域差の解消を急ぎたい。

 給付金制度は1981年に始まり、これまで上限額の引き上げや支給対象の拡大などが行われてきた。現在は「遺族」「重傷病」「障害」向けの3種類があり、警察庁によると、2022年度はそれぞれ10億2641万円、3485万円、4億2320万円だった。全体では前年度より4億7500万円余り増えている。

 北新地の事件ではビル内の心療内科クリニックが放火現場となり、心の不調で仕事を離れ、復職を目指し通っていた多くの人が巻き込まれた。今の算定方法では無職や休職中だと、大幅な減額の対象になる。

 被害者や遺族は民事訴訟を起こし、逸失利益も含め損害賠償を請求することもできるが、加害者に支払い能力がなければ、どうしようもない。支援は薄い、賠償金も取れないという現状をどこまで変えられるかが問われている。

 05年に施行された犯罪被害者基本法は被害者の権利保護を国や地方自治体の責務と定める。国とともに自治体も支援に積極的に取り組む必要がある。見舞金や貸付金の制度がある市区町村も増えているが十分ではない。支援拡充を全国隅々に広げるため、自治体を後押しする施策が国には求められる。

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