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日本版CDC

2023年8月26日
◆感染症研究 基盤強化必要だ◆

 新型コロナウイルス流行の教訓を生かして次のパンデミックに備えるため、「日本版CDC」とも呼ばれる「国立健康危機管理研究機構」が2025年以降に発足する。今年9月には政府の司令塔機能も強化される。感染症の流行はまた必ず起きる。そうした脅威への対応能力を早急に高める必要がある。

 国立健康危機管理研究機構は、グローバルな感染症や災害などに幅広く対応する米疾病対策センター(CDC)をお手本としている。感染症を専門とする厚生労働省の国立感染症研究所と、国際保健人材の育成に加えて病院機能を備える国立国際医療研究センターを統合する。

 基礎研究から臨床医学、疫学までカバーする総合的な公衆衛生医学センターの必要性はこれまでも日本医学会などが指摘してきた。統合が単なる看板のかけ替えに終わることなく、相乗効果を生かした専門家集団として高い能力を発揮してほしい。

 課題は山積している。米CDCが1万人超の人員がいるのに比べ、感染研の職員は700人強と少ない。国際医療研究センターは3千人規模だが病院のスタッフも多く、感染症対策を担う人材は一部とみられる。

 予算面の不安も大きい。米CDCの年間予算は1兆円超だが、感染研は数十億円規模。関係者によると、米CDCでは研究費の多くが内部予算で確保されているのに対し、感染研の内部予算では基本的に人件費や施設維持費しかまかなえない。本務である感染症対策の研究は国の研究費を別途獲得して行っているのが現状という。新たな組織が担う役割が増える可能性もあり、基盤強化が不可欠だ。

 9月に設置される政府の「内閣感染症危機管理統括庁」は、有事に新型インフルエンザ等対策特措法に基づく政府対策本部の事務局となる。

 本部長を務める首相を支えて司令塔の役割を担う。日本版CDCは政府の政策決定に役立てるため、最新の「科学的知見」を提供する。感染防止のための営業自粛や行動制限といった対策は政府の権限と責任で決定し、日本版CDCから積極的な政策提言や助言は求めない切り分けになっている。

 米CDCが国民や医療関係者に具体的な感染対策について勧告し、政府に助言する役目を担っているのとは大きな違いだ。東京五輪の開催の是非などを巡り、専門家から政府方針への異論が出て苦い思いをした”後遺症”とみることもできる。

 政府や医療関係者だけでなく、国民に向けて「科学的に正しい」情報を積極的に発信することが求められる。政治に忖度(そんたく)せず、独立性の高い専門家集団としての活躍を期待したい。

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