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ストーカー被害

2023年8月31日
◆加害者の治療制度化議論を◆

 ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けた加害者全員に対し、10都道府県で警察が定期的に連絡を取ったり、医療機関でカウンセリングや治療を受けるよう働きかけたりする取り組みを今月から試行している。これまでは事案ごとに必要かどうかを判断していたが、それを一律に実施し、命令後の加害者対応を強化するのが狙いだ。

 3カ月間の試行を経て、他の府県警でも導入を検討するという。今年1月に福岡市のJR博多駅近くで女性会社員が元交際相手の男に刺殺されるなど、禁止命令を受けた加害者がかえって被害者への恨みを募らせ、凶行に及ぶ事件は後を絶たず、現行法の限界を指摘する声が相次いでいた。

 2000年に施行された規制法は、恋愛感情のもつれによる付きまといなどストーカー行為に警告や禁止命令を出し、悪質な場合は摘発すると規定。これまでに3度改正され、交流サイト(SNS)のメッセージや衛星利用測位システム(GPS)を使った監視にまで規制対象は広がった。厳罰化も進んだが、被害者らの不安は尽きない。

 ストーカー行為の大半は警告や禁止命令によって止まる。しかし取り締まりの強化だけでは、博多の事件のような悲劇を防ぐことは難しい。試行を経て例えば、加害者の治療・更生を制度化するなど、多角的な対策に本腰を入れる必要がある。

 警察庁によると、付きまといのほか待ち伏せや尾行、GPSによる監視などストーカー行為を巡って22年、全国の警察に寄せられた相談は1万9131件に上った。相談を受けて警察は警告し、それでも続くときは公安委員会が加害者に聴聞を行い、禁止命令を出す。

 緊急性が高いと判断すれば警告なし、聴聞なしで命令を発することもできる。相談件数は前年より若干減ったが、命令は1744件で過去最多となり、このうち946件が緊急の命令だった。

 警察も16年に受診の働きかけを始め、22年は過去最多の1149人を対象にしたが、実際の受診者は153人にとどまった。費用の自己負担がネックになっているとみられる。

 過去に警察庁が公表した加害者の意識調査によると、4人に1人は自分のストーカー行為を認識しないまま「元の関係に戻りたい」などと付きまといなどを繰り返していたとされる。受診によって自らの支配欲や執着心と向き合わせ、過ちに気付かせる必要がある。

 試行では禁止命令を踏まえての対応だが、安全を確保するために、それ以前のできるだけ早い段階から治療的なアプローチを取り入れることを考えたい。

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