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辺野古最高裁判決

2023年9月6日
◆司法も地元民意切り捨てか◆

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古沖の軟弱地盤改良工事を巡り、県に対し工事の設計変更を承認するよう国土交通相が出した「是正指示」は違法だとして県側が取り消しを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷は県側の上告を棄却した。

 設計変更を不承認とした県の処分を取り消した国交相の「裁決」は無効だと県側が主張したもう一つの訴訟で、最高裁は先日、上告の不受理を決定しており、地盤改良工事を巡る二つの訴訟で県側の敗訴が確定した。

 2013年に当時の知事が埋め立てを承認した後に存在が明らかになった辺野古沖の軟弱地盤を巡って、工事の設計変更を不承認とするのは、工事を止めるための県側の「最後の切り札」ともされてきた。今回の判決で、玉城デニー知事は厳しい立場に置かれる。

 しかし、沖縄県では19年の県民投票で辺野古埋め立てに反対の声が約7割を占め、昨年9月の県知事選でも移設反対を訴えた玉城知事が再選されている。

 県側は上告で、地盤改良工事の調査の不十分さや新たな工事の環境への影響、工事に約9年かかり、完成したとしても普天間飛行場の返還は大きく遅れるなどの問題点を指摘していた。

 だが、最高裁は上告審で県側に弁論の機会を与えず、県が指摘した問題点への判断も示さずに、法的な解釈論だけで是正指示を適法だと判断した。事実上の門前払いで、反対する地元の民意を切り捨てる判決と言わざるを得ない。

 安全保障政策には、基地負担など地元の理解が不可欠だ。特に、政府が沖縄など南西諸島への自衛隊配備の強化を進める中で、地元の民意を顧みなくていいのか。国は誠意を持って県と話し合うよう求めたい。

 大量のくい打ちが必要となる軟弱地盤が見つかったことで、米側が認めたとしても普天間飛行場の返還は30年代以降にずれ込む見通しだ。さらに建設される滑走路は地盤沈下が想定され、使用可能かも不透明だ。

 日米両政府が1996年に普天間飛行場の返還で合意してから四半世紀が過ぎている。政府が行うべきなのは、まず普天間飛行場の早期運用停止を米側に求め、実現することだろう。

 2000年の地方分権一括法で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に変わった。だが、今回の不承認を巡り、国民の権利救済が主眼であるはずの行政不服審査法を使って防衛省が国交相に審査請求し、国交相が処分取り消しの裁決を出した。これでは地方の声は押しつぶされる。地元の懸念に向き合わず、法的解釈だけに終始した判断は禍根を残す。

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