京アニ放火殺人初公判
2023年9月8日

36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告の裁判員裁判初公判が京都地裁で開かれた。平成以降で最多の犠牲者を出した殺人事件から4年余り。車いすに乗って出廷した青葉被告は「自分のしたことに間違いありません」と起訴内容を大筋で認めた。
物事の善悪を判断する刑事責任能力の有無や程度が最大の争点。弁護側は、事件当時は責任能力がなかったとして無罪を主張した。これに対して検察側は「完全責任能力があった」とし、被告は京アニの小説コンクールに応募し、アイデアを盗まれたと一方的に恨みを募らせたと指摘した。
検察側と弁護側は通常は1回の冒頭陳述を今回も含め、それぞれ3回ずつ行う。これに沿って審理が進められ、裁判員らは非公開の評議で11月に責任能力について結論を出し、12月から来年1月にかけ量刑を決める。判決は1月25日。裁判員裁判としては、143日間に及ぶ異例の長期審理となる。
その中で動機などとともに注目したいのは、事件に至るまでの経緯だ。
被告は08年のリーマン・ショックのさなか派遣切りに遭って仕事と住まいを失い、雇用促進住宅に入居。家賃未納を繰り返し、大音量で音楽を流すなど近隣住民とトラブルになったという。12年にコンビニ強盗で逮捕され、実刑判決を受け16年に満期出所。精神障害があり、再犯防止を目的に福祉サービスへの橋渡しをする国の特別調整制度の対象になった。
出所した後、いったん更生保護施設に身を寄せ、16年夏ごろ事件当時に住んでいた、さいたま市内のアパートに移った。生活保護や訪問看護も受けていたとみられる。そうした中、京アニのせいで人生がうまくいかないという「筋違いの復讐(ふくしゅう)」を決意したと検察側は述べた。
どこかで思いとどまらせることはできなかったか、対応に改善の余地はないかと問いは尽きない。具体的にどのような支援が提供され、それは十分だったかどうかの審理を踏まえ、「孤独・孤立」対策の検証に反映させなければならない。
5月末、孤独・孤立対策推進法が成立。来年4月に施行され、官民による地域協議会の設置を自治体の努力義務とし、相談窓口開設などの費用を補助する。21年10月には、交際相手と別れ、仕事もうまくいかなくなった男が京王線の特急電車内で乗客を刺し、ライターオイルをまいて火を付ける事件も起きた。根っこには京アニ事件と同じように孤独・孤立があった。対策強化は待ったなしだ。