教員の働き方改革
2023年9月19日

中教審が教員の長時間労働是正に向けた緊急提言をまとめた。年間の授業時間数が国の基準を大きく超える学校に改善を促し、行事の精選や、教員の仕事をサポートするスタッフ拡充の検討を要請した。しかし、これまでの提言と重複しており、新味に欠ける。
近年、教員の労働が「過酷」「ブラック」との印象が広まった影響もあり、各都道府県・政令市の教員採用試験の志願倍率は低下傾向にある。熱意と能力を持つ人材を採用できなければ、日本の学校教育の基盤が揺らぐ。抜本的な対策が急務だ。
ポイントは(1)教員数の増加(2)業務スリム化(3)長時間労働抑制の仕組みの強化―の3点だ。
経済協力開発機構(OECD)が48カ国・地域を対象に2018年に実施した国際教員指導環境調査によると、日本の中学校教員の仕事時間は1週間当たり56・0時間で、世界最長。小学校教員も15カ国・地域で最長の54・4時間だった。国際的に見て突出していることを直視しなければならない。
文科省の昨年度の調査でも、残業時間上限の月45時間を超える教員は小学校で64・5%、中学校で77・1%に上る。
公立校教員の給与制度は一般の公務員と比べて特殊だ。残業代の代わりに月給4%相当の「教職調整額」を上乗せ支給する仕組み。実際の残業時間とは連動しておらず「定額働かせ放題」との批判が根強くある。
教員の多忙化につながっている仕事量の増大も見逃せない。養成に関わる国立大教員は「全国の児童生徒にコンピューターと高速ネットワークを整備するGIGAスクール構想や、小学校の英語教育への対応など、増え続ける仕事に現場は日々追われている」と指摘。実態が交流サイト(SNS)で拡散し、学生に教員志望をためらわせる要因になっていると話す。
日本労働弁護団は8月、教員の労働時間法制を巡り意見書をまとめた。現行制度はサービス残業にお墨付きを与えていると批判。帰宅後に翌日の授業準備などをする「持ち帰り残業」が恒常化していることも踏まえ、残業代支給や厳格な労働時間管理の実施を求めた。
中教審は今後、現行の給与制度をどう見直すかを議論する予定だ。処遇改善や教員数増加に向けた結論がまとまったとしても、従来のように「文科省VS財務省」の構図になれば、財務省が人件費増加に消極的な反応を示すことは目に見えている。
業務スリム化は幅広い合意が欠かせない。岸田文雄首相は「子ども・子育て政策は最も有効な未来への投資」と述べている。言葉だけでなく、具体的な政策が求められる。