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マスコミ倫理懇談会

2023年9月22日
◆読者の信頼に応える言葉を◆

 「問おう 語ろう 伝えるために」をメインテーマに、マスコミ倫理懇談会全国協議会の第65回全国大会が21日、宮崎市で開幕した。本県開催は2001年以来2度目で、初日はオンライン視聴の約70人を含め約280人が参加した。ネット情報の浸透などによりメディア環境が激変する中、マスコミの使命感を再確認する機会となった。

 ジャニーズ事務所の創業者による性加害問題では、寡少報道で沈黙を続けた国内のマスメディアの問題点が浮上したばかりだ。報道の横並び主義、企業間の忖度(そんたく)からはじかれた結果の人権侵害であり、情報発信の立場にある者はまずこの反省を胸に刻まねばならない。加えて人権問題への感性を研ぎ澄ます努力を続けなくてはならない。

 人権問題をはじめ、安全保障や基地問題、ジェンダーなど社会問題は枚挙にいとまがない。さらに即応性に価値が置かれる社会にあって既存メディアも試行錯誤している。記念講演した東京芸大の岡本美津子副学長=写真、宮崎市出身=はこれに対して、示唆的な言葉を伝えた。

 「複雑な社会の事象を認識し観察し、問い続け考え続ける。そして物事の本質や問いをあぶり出していく。そうしたアート思考がどの分野でも求められている」。さらに「拙速に解決方法は見つからない。答えの出ない事態に耐える力、中ぶらりんに耐える力が求められている」と話した。強靱(きょうじん)な言葉を探し続けるメディア人への激励と受け止めたい。

 6分科会のうち「新たな人権報道への試み」と題した分科会では、被差別部落、トランスジェンダー、障害者差別について記者自身の物語や経験を基に報道した取り組みが報告された。既存報道では客観性や中立性が重視されてきたものの、記者のパーソナルな側面を出した「1人称」報道について討論。いずれも伝え方の幅の広がりと、記者の「伝える覚悟」を印象付けるものだった。

 別の分科会では南海トラフ巨大地震への備えとして、本紙とテレビ宮崎が実施してきた防災行動計画(タイムライン)製作の効果も報告された。

 変革期にあるマスメディア。この先も想像力と誠実さをもって地域や社会の未来を見詰めていきたい。読者や視聴者の信頼と期待、厳しい視線にさらされている。

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