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自衛隊ハラスメント

2023年9月25日
◆組織の黙認体質 早期根絶を◆

 ハラスメント被害に対して、自衛隊では臭い物にふたをするような空気が支配的だったようだ。その結果、適切な対応はなおざりにされ、ハラスメントのまん延を許すことになった。

 元陸自隊員五ノ井里奈さんの性被害告発などを受け、防衛省が全自衛隊を対象に実施した特別防衛監察の結果から実態が浮かび上がった。国民の生命、自由を守るべき組織で人権侵害の横行などあってはならない。あしき風土を一掃すべきだ。

 監察結果の指摘や外部有識者会議の提言は、客観基準に基づく厳正な対処、外部評価の導入などの対策を打ち出している。

 監察結果によると、把握した被害は1325件で、パワハラが76%余り。残りはセクハラや妊娠・出産を巡るマタハラなどだった。6割強に当たる850件は、常設ホットラインなどの相談窓口を利用していない。驚かされるのはその理由だ。「相談しても改善が期待できない」が4分の1近く、「相談できる雰囲気ではない」「不利益、報復を懸念した」が続いた。

 被害者側を「諦め」が覆っていたと言わざるを得ない。なぜこんな風土が醸成されたのか。答えは管理職や相談窓口に被害を訴えた400件への対応のまずさにあった。管理職らが取り上げることに消極的だった、と答えた被害者は「非常に多数」に上り、「たらい回し」「丸投げ」されたと感じた人もいた。

 「『隊長に傷が付く』と取り下げを促された」「自衛隊はそういうところと一蹴された」。信じ難い証言が相次ぎ「もみ消し」「脅し」と受け取った人も少なくない。五ノ井さんのケースでも、相談が大隊長に伝わらず、逆に口止めされた。

 こうした前例が積み重なったら諦めが広がるのも当然だろう。組織がハラスメントを黙認したと言わざるを得ず、これでは根絶などできるはずがない。

 監察結果は「防止を強調すると『ハラスメントは存在しない』との粉飾や被害を訴えにくい空気につながる」と指摘。ハラスメントは起きうる前提で、初期に厳正対処する原則を確立する必要性を訴えている。

 重要なのは、対処に外の目を入れることだ。有識者会議の提言は、外部有識者の意見や関与を得て、客観的な懲戒処分基準を制定、公表し、把握から3カ月を目標に処分を実施することを求めた。処分は全隊員に周知するほか、有識者と幹部らの常設委員会を設置し、定期的に対策を見直すことも提案した。

 厳格な統制が要請される組織では「適正な指導」と「パワハラ」の区別を巡り、認識にずれが生じやすい。閉鎖的で特殊な組織だからこそ、外部の指摘に真摯に耳を傾けるべきだ。

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