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記事のネット利用

2023年9月28日
◆対価の見直しを急ぐべきだ◆

 公正取引委員会は、ヤフーなどIT大手のインターネットにおける記事利用について、提供する報道機関との取引実態の報告書をまとめた。記事の対価が著しく低い場合は独禁法違反の恐れがあると指摘。また、公正な取引のため対価算定方法などの情報をできるだけ開示するようIT企業側に求めた。

 若い人を中心に新聞やテレビ離れが進む一方で、ネット経由でのニュース閲覧が増えている。新聞・通信、放送などの報道機関は、ネットサービスを経営の柱に育てるべく試行錯誤を続けているが、思うように進んでいないのが現状だ。

 その要因の一つとして、報道機関の取材や記事作成コストを十分に賄えない記事対価の低さと、ニュースサイトなどを運営するIT大手の影響力の強さが指摘される。このような現状が続けば報道機関の体力が弱まるだけでなく、最終的なニュースの受け手である国民の利益が損なわれる恐れがある。

 IT大手はネット時代における社会的役割の高まりを認識し、記事利用の対価を適正な水準に見直す時だ。一方のメディア側には、それに見合う質の高い記事の提供に一層の努力が求められる。

 報告書作成に当たって公取委の問題意識は明快だ。ニュースが「国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」であり、不公正な取引状況を放置すれば、国民に質の高いニュースが届かなくなる恐れがあるためとした。報道の役割への評価を歓迎したい。

 その上で実施された実態調査の結果は、ネット向け記事の対価が妥当かどうかを関係者に考えさせる内容と言える。

 調査を踏まえて公取委は、ヤフーや米グーグルなどニュースの閲覧サイトや検索で市場シェアを持つ企業による「著しく低い対価」の設定は独禁法の「優越的地位の乱用」になり得ると警告。日本新聞協会はコメントで、IT大手に「報道機関との取引や関係の適正化に向けて誠実に対応するよう」求めた。

 事態が改善されなければ、海外のような対価支払いなどを義務付ける法整備が今後の検討課題となろう。

 公取委は、地方新聞社などがIT大手に対して「まとまって交渉できる枠組み」も提案した。交渉力の弱さが不利な取引条件につながりやすいためで、記事対価のデータ開示を共同で求めることなどは独禁法上の問題にならないと明示した。

 人口減少や景気の弱さから地方メディアの経営環境は厳しいが、地域ニュースの大切さは変わらない。収益改善への効果が期待できる今回の提案は検討に値しよう。

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