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水俣病訴訟

2023年9月29日
◆認定と救済の基準 再構築を◆

 2009年施行の水俣病特別措置法による救済の対象外とされたのは不当として、128人が国や熊本県、原因企業のチッソに損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は全員を水俣病と認め、賠償を命じた。

 手足のしびれなどを引き起こす水俣病は熊本県で1956年に公式確認され、政府は68年にチッソの工場排水に含まれるメチル水銀による公害と認定。74年には公害健康被害補償法が施行され、国の基準で患者と認定された人にチッソが補償を行う仕組みができた。

 しかし厳しすぎると批判が絶えない基準によって患者と認定されない人が続出。「最終解決」を掲げ、議員立法で特措法が制定され、未認定でも一時金支給などが認められたが、居住地域などで線引きされた。申請も2年ほどで締め切られた。かつて熊本、鹿児島両県で暮らし、近畿地方などに移り住んだ原告らは取り残された。同様の訴訟は東京、新潟、熊本の3地裁でも続いている。

 「公害の原点」とされる水俣病を巡り、初めてチッソの責任を認めた熊本地裁判決から50年。司法は国などの責任も認め幅広い救済を促してきたが、国の動きは鈍い。今回の判決は従来の認定・救済を否定した。再構築を急ぐ必要がある。

 水俣病は、水俣湾周辺に排出された毒性の強いメチル水銀で汚染された魚介類を食べることで起きる神経系疾患。感覚障害や運動失調、視野狭窄(きょうさく)、聴力障害などの症状があり、根本的治療法は見つかっていない。

 公健法に基づいて患者を認定する国の基準は原則として、感覚障害など複数の症状の組み合わせが見られるかだ。認定患者は1600万~1800万円などの補償を受けられる。ただハードルが高く、熊本県関係の申請は今年8月末の時点で計約2万2千件に上るが、認定は1700件余りにとどまる。

 最高裁は2004年10月の判決で感覚障害のみの原告を患者と認め、13年4月の判決で改めて「国の認定基準が示した症状の組み合わせが認められない感覚障害のみの水俣病は存在しないとの科学的な実証はない」と指摘した。だが国は認定基準を見直していない。

 これまで国は司法判断に背中を押される形で徐々に救済対象を広げてきた。一方で、厳しい認定基準と特措法の枠組みによって患者数を抑え込もうとしたのは否定できない。地裁判決はその姿勢に真っ向から疑問を突きつけ、転換を迫った。もはや、その場しのぎの対応では追いつかないことを肝に銘じ、国はいまだ声を上げられない人も含め、できる限りの救済に乗り出すべきだ。

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