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海自セクハラ処分

2023年11月16日
◆信頼回復向け体質改善急げ◆

 女性隊員に対する悪質なセクハラに関し、海上自衛隊は関係者の懲戒処分を発表した。行為責任を問われた男性隊員が停職10カ月、問題把握後に女性隊員に男性隊員との面会を強要し、謝罪を受けさせるなど不適切な対応をしたとして、上司の男性1等海佐が同3カ月などだ。

 1佐は「(事態を)収めようとした」と釈明した。男性隊員のセクハラが言語道断なのは言うまでもないが、自衛隊に共通する根深い病巣は1佐のように上司らが厳正な対処をせず、臭いものにふたをするような対応が横行していることだ。

 今回の事案当時は、元陸自隊員五ノ井里奈さんの性被害告発などを踏まえ全自衛隊対象のハラスメントに関する特別防衛監察のさなかだった。何度繰り返すのか。ハラスメントを一切許容しない体質に改善できなければ、国民の信頼回復はできない。改めて急がねばならない。

 海自によると、セクハラがあったのは呉地方総監部(広島県呉市)傘下の部隊。男性隊員については、昨年8~12月に執務室などで女性隊員の胸を触ったり背後から抱き付いたりするなど4件のセクハラを認定した。

 部隊ナンバー2の1佐は、同11月に問題を把握。指揮官に伝えたものの上級部隊への報告は女性隊員が退職の意向を示した今年2月だった。昨年12月には嫌がる女性隊員に男性隊員と面会させ謝罪を受けさせた。1佐はその場で「(男性隊員を)楽にしてあげて」と加害者をかばうような発言もしたという。

 女性隊員は退職時「セクハラ行為や上司の対応が許せない」と話した。当然だ。事後対応で受けたショックは大きい。1佐が迅速、適切に対処していればセクハラの一部は防げた可能性もある。今年8月に発表された特別防衛監察の結果では、被害を訴えた経験がある人たちから「指揮官にもみ消された」「事を大きくすると『職場にいられなくなる』と脅された」などの声が相次いだ。

 特別防衛監察と並行して防止対策を議論した有識者会議は、迅速な懲戒処分などに加え、教育の見直しや半年に1回程度のアンケート実施、外部有識者の助言を得た管理体制の定期的な見直しも提言した。着実に実行しなければならない。

 今回、1佐は男性隊員の謝罪にこだわり、女性隊員の心の傷を広げた。五ノ井さんのケースでも加害者側の男の隊員3人が懲戒免職前に直接謝罪したが、強制わいせつ罪の公判では、自らの意志ではなく「陸自の指導。想定問答を含む謝罪要領も渡された」と述べた。

 形だけの謝罪に意味はなく、有害だ。形式偏重の体質も改善すべきだ。

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