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生活保護減額で高裁判決

2023年12月6日
◆信頼するに足る制度なのか◆

 2013~15年の厚生労働省による生活保護の基準額引き下げについて、名古屋高裁は違法として取り消し、愛知県内の受給者13人に1人1万円の慰謝料を支払うよう国に命じる判決を出した。引き下げは生存権を保障する憲法に反すると、29都道府県で訴訟が起こされ、これまで一審判決22件のうち12件で減額処分が取り消されている。

 高裁レベルで初の原告勝訴となり、国の賠償責任を初めて認めたのは画期的といえよう。焦点は食費や光熱費などに充てる「生活扶助」の基準額。国側は「11年時点で物価下落により生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加し一般低所得世帯との不均衡が顕著。引き下げによる是正は相当」と主張した。

 しかし高裁判決は、厚労省による政策決定過程をつぶさに検証。専門的知見との整合性や統計の扱い、減額の手法に次々と疑問を呈し、厚労相に「重大な過失」があると結論付けた。  今、165万世帯余りが生活保護を受けている。新型コロナウイルス禍に伴う支援は縮小し申請が増えるとみられる中、安全網として信頼するに足る制度かが問われる。減額ありきの疑念も拭えない。

 厚労省は物価が下落したとして、13年から3年間で生活扶助の基準額を大幅に引き下げ、計670億円を削減した。そのどこに問題があったのか。高裁判決は丁寧に指摘している。

 まず生活保護受給世帯と一般低所得世帯とを比較した専門家部会の検証結果に基づく「ゆがみ調整」。厚労省はその結果通りには生活扶助基準を改定せず、本来増額すべき世帯に不公平な処理を行ったのは専門的知見との整合性を欠くとした。

 「デフレ調整」でも厚労省は独自の指数を用いたが、テレビやパソコンといった教養・娯楽耐久財のウエートが非常に大きく受給世帯の消費実態と懸け離れていると問題視。さらに07~08年の物価上昇を合理的な理由もなく考慮せず、それ以降の物価下落のみを基準改定に反映させたなどと疑問を投げかけた。

 生活保護は憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を支える重要な制度で、その基準は住民税や国民健康保険料、社会保障給付などと連動し生活の隅々にまで幅広い影響が及ぶ。改定に当たっては受給者らの声に耳を傾け、専門家の意見やデータを慎重に検討した上、検証可能な形で判断を行わなければならない。

 コロナ禍や物価高により、これまで以上に多くの人が貧困に陥りやすい状況になっている。国民がよく分からないうちに最低限の生活水準が引き下げられるようでは、憲法が保障する権利の実現は難しい。

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