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国立大法人法改正案

2023年12月12日
◆組織いじりよりも政策転換を◆

 国立大学法人法の改正案が今国会で成立する見通しだ。規模の大きな大学に「運営方針会議」の設置を義務付け、現在は学長が担う運営の根幹部分を委ねる、というのが主な内容だ。

 同会議は3人以上の委員と学長で構成される。委員の選考に当たっては学内で協議し、文部科学相の承認を得て学長が任命する。委員には大学外部の「有識者」が想定されているという。会議の権限は6年間にわたる中期目標や中期計画、予算、決算を決定するほか、運営方針に従っていないと判断すれば学長に改善を求め、学長の選考や解任について意見を述べることもできる。

 改正案に対し、大学の教職員などからは、政財界の意を受けて現場を無視した運営が横行し学問の自由や大学の自治が侵され、教育力や研究力の低下につながるとして強い批判の声が上がる。懸念はもっともだ。運営の自立が狙いなのに、文科相の承認を得るというのも矛盾でしかない。同会議が天下りの温床となることが予想される。

 政府は、国立大が「経営のプロ」を委員に招き、資金集めにまい進することを期待しているようだ。しかし、米国の有名私立大をまねたそんな仕組みが果たして日本でうまく働くだろうか。日本には個人が多額の寄付をする文化も、それを促す魅力的な税制もない。大学の研究から生まれた知的財産が巨万の富を大学にもたらすことは米国であっても極めてまれだ。

 国立大は国家公務員削減の一環で2004年に法人化され、基盤的経費である国からの運営費交付金を、15年度に下げ止まるまで毎年1%ずつ削られ続けた。運営基盤が弱体化、不安定化し、教員は研究費に事欠くようになった。外部の研究費獲得に追われ、さらには生活面まで含めた学生のケア、社会貢献、中期計画の評価作業などの仕事が増え、研究時間が減った。

 若手研究者に対して安定した職を提供できなくなり、博士を目指す若者は減り続ける。こうした状況を背景に、日本の研究力低下が止まらない。今年8月、文科省科学技術・学術政策研究所が発表した注目度の高い論文数の国別ランキングで日本はイランに抜かれ過去最低の13位となり、英科学誌ネイチャーは「日本の研究はもはや世界レベルにない」と報じた。

 はい上がるため、運営費交付金を増やすとともに「選択と集中」の政策を見直すべきだ。卓越大など一部への支援では全体の研究力は上がらない。中小規模校を含む研究者ネットワークの強化につながらないからだ。国会と政府には小手先の組織いじりではなく、政策を検証し抜本的転換を図るよう求めたい。

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