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広がる裏金疑惑

2023年12月16日
◆人事交代だけで終わらない◆

 岸田文雄首相が率いていた派閥を含め自民党全体を覆う疑惑である。閣僚や副大臣、党役員の入れ替えで事態の沈静化を図るつもりなら、政権与党トップとしての責任を回避しているとのそしりは免れない。

 政治資金パーティーを巡る自民党安倍派の裏金疑惑を受け、岸田首相は、同派出身の松野博一官房長官や西村康稔経済産業相ら閣僚4人を事実上更迭した。副大臣5人と政務官1人も辞表を提出、党執行部では萩生田光一政調会長らが辞任する。

 安倍派は、政治資金収支報告書にパーティー収入を過少記載し、最近5年間で数十人の議員に合計で約5億円をキックバック(還流)させていた疑いが持たれている。

 防衛副大臣を退いた安倍派議員は、派閥から還流分を収支報告書に「記載しないでいい」と指示されたと証言した。受領を否定する閣僚もいたが、派閥主導で政治資金規正法に反する裏金を捻出していたのは明白だ。

 裏金の総額や関わった議員の広がりも考えれば、安倍派が指弾されるのは当然だろう。安倍晋三元首相をはじめ、長らく政権の中枢を占めてきた最大派閥としてのおごりが順法意識をまひさせたと言える。東京地検特捜部は安倍派側の強制捜査に乗り出し、還流を受けた所属議員を聴取する方針という。

 首相が先に会長ポストを降りた岸田派でも、パーティー収入を実際集めた金額より数千万円少なく収支報告書に記載した疑いが浮上。二階派でも不記載が指摘され、安倍派だけの問題ではない。国民の不審の目は、カネ集めやポスト配分を相も変わらず派閥に依拠する自民党政治、なかんずく党総裁である首相に向けられている。

 岸田首相は「政治への信頼回復のため、火の玉となって取り組んでいく」と強調した。方策としては、政治資金パーティーの全面禁止などの規制法改正、派閥解消が挙げられるが、首相はこうした具体論には踏み込まなかった。

 閣僚交代後に新たな疑惑が出た場合の自らの責任についても明言を避けた。退路を断って政治改革を実現するという覚悟は伝わってくるはずがない。

 特捜部は裏金疑惑の強制捜査とは別に、東京都江東区長選を巡る公選法違反事件で、買収容疑がかかっている柿沢未途衆院議員の議員会館事務所や自宅を家宅捜索した。自民党を離党したものの、柿沢氏は9月の内閣改造で首相が任命した法務副大臣だった。

 自民党議員に続発する「政治とカネ」問題。岸田首相が先頭に立って自浄能力を示さなければ、国民が選挙で政権に不信任を突きつけるしかない。

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