学術会議法人化
2024年1月25日
◆安易な結論 再検討を求める◆
政府は国の特別の機関である日本学術会議を特殊法人に変えることを表明した。同会議の在り方を議論するため内閣府が設置した「有識者懇談会」の中間報告を踏まえた決定という。
菅義偉前首相が2020年9月、学術会議の会員候補6人の任命を拒否した後、自民党が主張した通りの方向に事態が進みつつある。だが、法人化は私たちの社会にとって有益な選択なのか。
学術会議は科学の発展を図り、社会に科学を浸透させることを目的として1949年に設立された。内外に対する科学者の代表機関と位置付けられ、政府から独立して職務を行うのが特徴だ。
重要な職務に社会や政府への提言がある。50年代以降、国民の知る権利に応えるため、ずさんな公文書管理の改善を政府に繰り返し求め、国立公文書館の設置や法整備を後押ししてきた。最近では昨年9月、受動喫煙対策で例外扱いされている加熱式たばこの規制強化を提言。紙巻きたばこより有害性が低いという科学的根拠はなく、受動喫煙による害も懸念されると指摘した。
このように社会的課題について、どこにも忖度(そんたく)せず、科学の幅広い知見に基づく提言を出すことができ、影響力を持つ組織は学術会議だけだ。
行政に提言する審議会などの諮問機関は、役人の出す結論を裏付ける存在に過ぎない。メンバー選考過程は全く不透明であるし、提言のその後を監視する機能もない。
ただし、現状では学術会議の活動にも限界がある。一つは体制の弱さだ。会員210人の全員が非常勤。予算は23年度約9億5千万円で減少傾向にあり、6割近くを事務局職員50人の人件費が占め、出張旅費にも事欠く。社会のニーズに応える提言をタイミング良く出していくには科学的知見の扱いに慣れた博士号取得者を職員に雇い、予算も増やして体制を抜本的に強化する必要がある。
内閣府の有識者懇談会はこうした問題を解決し「科学的助言」のシステムを充実させるために最適な学術会議の在り方を議論すべきだった。一部のメンバーはそんな議事進行を求めたが、そうならなかったのは諮問機関の限界といえる。
中間報告は、法人化で政府の出資金に加え、産業界からも審議依頼を受け対価が得られるとした。特別の機関でなくなれば政府への忖度の余地が生まれる。企業にも借りがあるとなれば、率直な提言は期待できまい。あまりにも安易な結論に基づく、政府方針の決定と言わざるを得ない。政府にも懇談会にも作業のやり直しを求めたい。
政府は国の特別の機関である日本学術会議を特殊法人に変えることを表明した。同会議の在り方を議論するため内閣府が設置した「有識者懇談会」の中間報告を踏まえた決定という。
菅義偉前首相が2020年9月、学術会議の会員候補6人の任命を拒否した後、自民党が主張した通りの方向に事態が進みつつある。だが、法人化は私たちの社会にとって有益な選択なのか。
学術会議は科学の発展を図り、社会に科学を浸透させることを目的として1949年に設立された。内外に対する科学者の代表機関と位置付けられ、政府から独立して職務を行うのが特徴だ。
重要な職務に社会や政府への提言がある。50年代以降、国民の知る権利に応えるため、ずさんな公文書管理の改善を政府に繰り返し求め、国立公文書館の設置や法整備を後押ししてきた。最近では昨年9月、受動喫煙対策で例外扱いされている加熱式たばこの規制強化を提言。紙巻きたばこより有害性が低いという科学的根拠はなく、受動喫煙による害も懸念されると指摘した。
このように社会的課題について、どこにも忖度(そんたく)せず、科学の幅広い知見に基づく提言を出すことができ、影響力を持つ組織は学術会議だけだ。
行政に提言する審議会などの諮問機関は、役人の出す結論を裏付ける存在に過ぎない。メンバー選考過程は全く不透明であるし、提言のその後を監視する機能もない。
ただし、現状では学術会議の活動にも限界がある。一つは体制の弱さだ。会員210人の全員が非常勤。予算は23年度約9億5千万円で減少傾向にあり、6割近くを事務局職員50人の人件費が占め、出張旅費にも事欠く。社会のニーズに応える提言をタイミング良く出していくには科学的知見の扱いに慣れた博士号取得者を職員に雇い、予算も増やして体制を抜本的に強化する必要がある。
内閣府の有識者懇談会はこうした問題を解決し「科学的助言」のシステムを充実させるために最適な学術会議の在り方を議論すべきだった。一部のメンバーはそんな議事進行を求めたが、そうならなかったのは諮問機関の限界といえる。
中間報告は、法人化で政府の出資金に加え、産業界からも審議依頼を受け対価が得られるとした。特別の機関でなくなれば政府への忖度の余地が生まれる。企業にも借りがあるとなれば、率直な提言は期待できまい。あまりにも安易な結論に基づく、政府方針の決定と言わざるを得ない。政府にも懇談会にも作業のやり直しを求めたい。