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ミャンマー政変3年

2024年2月8日
◆国際世論は合意履行を迫れ◆

 ミャンマー国軍が、総選挙で圧倒的支持を集めたアウンサンスーチー氏の民主政府をクーデターで倒して3年。軍事政権は非常事態宣言の延長を発表し、総選挙の実施を先送りした。

 軍政は民主派を排除した総選挙による国軍主導の「民政復帰」を目指すが、治安の悪化で行き詰まっている。

 昨年10月に北東部などで三つの少数民族武装勢力が一斉蜂起し、情勢は一段と流動化した。国軍の拠点陥落が相次ぎ、部隊規模での投降や脱走兵が続出。停戦の成立が伝えられる地域もあるが、各地で戦闘は続く。

 人権団体「政治犯支援協会」によると、クーデター後の弾圧で4400人以上が死亡し、約2万人が拘束されている。国軍は空爆や砲撃で市民多数を殺害する蛮行を繰り返しており、犠牲者はもっと多い可能性がある。国連人道問題調整室(OCHA)によると、約260万人が避難民となっており、一部はインドやタイに流入、地域の安定も脅かされている。

 国際社会の関心がウクライナやパレスチナ自治区ガザに奪われ、ミャンマーが忘れられると軍政は期待しているかもしれない。日本は暴力停止を迫る国際世論の先頭に立ち、東南アジア諸国連合(ASEAN)の仲介努力を強く後押ししたい。

 軍政は1月下旬、ラオスで開かれたASEAN外相会議に代表として外務省高官を送った。2年以上欠席を続けてきたが、態度を軟化させたと受け止められている。だが、過去の約束を果たさなければ意味がない。

 ASEANはクーデターの約3カ月後、国軍トップのミンアウンフライン総司令官が出席する臨時首脳会議を開催し(1)暴力の即時停止(2)平和解決へ向けた対話(3)ASEAN特使の仲介―など5項目合意をまとめた。

 しかし軍政は合意を履行する姿勢を見せず、不満を募らせたASEANは、会議に軍政の「閣僚」でなく官僚ら「非政治的代表」を送るよう要求した。これに軍政が反発して欠席していたが、今回は要求に応じた。軍政が苦境に陥ったことを反映しているのだろう。

 国連安全保障理事会の決議が求めた政治犯の釈放は早期の実現が望まれる。事実上の国家元首だった78歳のスーチー氏は、軍政下の非公開裁判で汚職などの罪に問われ、計27年の刑期に服している。健康が心配だ。

 日本が政府開発援助(ODA)でミャンマーに無償供与した旅客船が兵士や武器の輸送に使用されていたことが明らかになった。由々しい不正使用だが氷山の一角かもしれない。日本はクーデター後、ODAの新規事業を停止したが、既存案件も人道支援以外は見直すべきだ。

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